喫煙・飲酒に「歯が少ない」が重なると口腔咽頭がん死亡リスクが最大4.77倍に
喫煙・飲酒に「歯が少ない」が重なると口腔咽頭がん死亡リスクが最大4.77倍に。2026年に発表された東京科学大学の論文から言えること・言えないことを整理し、メカニズムの仮説、HPVワクチンを含む予防法を医学的根拠に基づいて徹底解説。禁煙・節酒と口腔健康管理の重要性を探ります。
目次
- 研究の背景と目的
- 研究の方法
- 研究結果
- この研究から言えること
- この研究から言えないこと
- 考えられるメカニズム(仮説)
- 臨床的・公衆衛生的意義
- 予防のために私たちができること
- 今後の研究課題
- まとめ
- 参考文献
1. 研究の背景と目的
喫煙と飲酒が、口腔や咽頭のがんリスクを高めることは以前からよく知られています。一方で、歯の本数が少ないことも、がん死亡や全身の健康悪化と関連する可能性が報告されてきました。
今回注目されたのは、「喫煙・飲酒」と「歯が少ないこと」が重なったときに、口腔咽頭がんによる死亡リスクがどの程度高くなるのかという点です。この点を、日本の高齢者を対象に長期間追跡して調べた研究が、2026年に報告されました。
2. 研究の方法
この研究は、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いた前向きコホート研究です。2010年時点で自立して生活していた65歳以上の日本人39,882人を対象に、2022年まで約12年間追跡しました。
研究開始時に、喫煙歴、飲酒歴、現在の歯の本数が質問票で確認されました。歯の本数は「0~19本」と「20本以上」に分けて解析され、追跡期間中の口腔咽頭がん死亡との関連が統計学的に検討されました。
3. 研究結果
追跡期間中、83人が口腔咽頭がんで死亡しました。喫煙と飲酒の経験がある人は、どちらの経験もない人と比べて、口腔咽頭がん死亡リスクが2.87倍高いと推定されました。
また、歯の本数が0~19本の人は、20本以上ある人と比べて、口腔咽頭がん死亡リスクが1.96倍高いという結果でした。さらに、喫煙・飲酒経験があり、なおかつ歯が0~19本の人では、非喫煙・非飲酒者に比べて死亡リスクが4.77倍に上昇していました。
4. この研究から言えること
この研究から言えるのは、喫煙、飲酒、歯の少なさがそれぞれ独立した問題としてだけでなく、重なることでより大きなリスクにつながる可能性があるということです。特に、歯が少ない人では喫煙や飲酒の悪影響が強く出る可能性が示されました。
また、「歯の本数」は単なる口の中の問題ではなく、その人の生活習慣、慢性炎症、栄養状態、医療アクセスなどを反映する健康指標として見る必要があることも示唆されます。一般向けに言い換えると、歯を失っていること自体が、体全体の健康リスクのサインになっている可能性があります。
5. この研究から言えないこと
ただし、この研究だけで「歯が少ないことが直接がんを起こす」とは言えません。観察研究なので、関連は示せても、原因そのものを証明することはできないためです。
また、歯を失った原因が虫歯なのか歯周病なのか、あるいは外傷や治療上の抜歯なのかは区別されていません3[3]。喫煙量や飲酒量の細かな違い、口腔清掃習慣、栄養状態、社会経済的背景などの影響も完全には取り除けていない可能性があります。
6. 考えられるメカニズム(仮説)
考えられる理由の一つは、歯の少なさの背景に歯周病などの慢性炎症があることです。慢性炎症は細胞傷害や発がんに関わる環境をつくる可能性があり、喫煙や飲酒の影響と重なることで、口腔粘膜への負担が強まると考えられます。
さらに、歯が少ないと咀嚼機能が低下し、食事内容が偏って栄養状態が悪くなることがあります。口腔内細菌叢の変化や、発がん物質が口の中に長くとどまりやすくなることも、関連の一部かもしれませんが、現時点では仮説段階です。
7. 臨床的・公衆衛生的意義
この研究は、口腔咽頭がん予防を考えるときに、禁煙や節酒だけでなく「歯を守ること」も重要だと示した点に意義があります。特に、歯が少なく、かつ喫煙・飲酒習慣がある人は、重点的な支援や受診勧奨が必要な高リスク群と考えられます。
歯科の現場でも、歯の本数を単なる咀嚼機能の問題としてではなく、全身の健康リスクの手がかりとしてとらえる視点がより重要になります。医科と歯科が連携し、禁煙支援、節酒支援、口腔管理、がんの早期発見を組み合わせていくことが望まれます。
8. 予防のために私たちができること
まず大切なのは、禁煙と節酒です。喫煙と飲酒は口腔・咽頭がんの主要な予防可能リスクであり、両者が重なるとリスクはより高まります。
次に、歯周病や虫歯を放置せず、定期的に歯科受診を行い、できるだけ多くの歯を保つことが重要です。口内炎が2週間以上治らない、しこりがある、赤い・白い変化が続くなどの症状があれば、早めに歯科口腔外科や耳鼻咽喉科を受診することが勧められます。
さらに、口腔咽頭がんの一部、特に中咽頭がんの一部はHPV感染と関連しています。HPVワクチンは子宮頸がんワクチンとして知られていますが、口腔・中咽頭に関わるHPV感染の予防にも役立つ可能性があり、男性にも接種メリットがあります。
日本でも男性へのHPVワクチン接種に対する関心や自治体助成は広がりつつありますが、口腔咽頭がん予防効果を直接示す長期データはまだ十分ではありません。そのため現時点では、禁煙、節酒、口腔管理、必要に応じたワクチン接種を組み合わせて考えることが現実的です。
9. 今後の研究課題
今後は、歯が少ないことそのものの影響なのか、歯周病や栄養不良、生活習慣、社会経済的要因の影響なのかを、より詳しく分けて検討する必要があります。また、歯の喪失原因や補綴治療の有無、口腔衛生状態などを含めた解析も重要です。
HPVワクチンについても、口腔内HPV感染を減らす効果は示されていますが、中咽頭がんそのものの発症予防をどこまで減らせるかは、今後の長期研究での確認が必要です。
10. まとめ
今回の研究は、喫煙・飲酒に加えて「歯が少ないこと」が重なると、口腔咽頭がん死亡リスクがさらに高くなる可能性を示しました。ただし、これは因果関係を断定する研究ではなく、歯の少なさが全身の健康状態や生活習慣の悪化を映すサインである可能性も含めて解釈する必要があります。
一般の人にとって重要なのは、禁煙、節酒、歯を守ること、口の異変を放置しないことです。加えて、HPV関連の口腔咽頭がんという視点からは、子宮頸がんワクチンというイメージだけでなく、男性を含めたHPVワクチン接種の意義にも今後さらに注目が必要です。
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11. 参考文献
- Znaor A, Brennan P, Gajalakshmi V, et al. Cigarette smoking, alcohol drinking, and oral and pharyngeal cancer mortality in three Asian countries (2008)
喫煙・飲酒とアジア3か国における口腔・咽頭がん死亡の関連
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18449960/ - Goto Y, Wada K, Uji T, et al. Number of Teeth and All-Cause and Cancer Mortality in a Japanese Community: The Takayama Study (2020)
日本人地域住民における残存歯数と全死亡・がん死亡との関連:高山研究
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31006716/ - Kiuchi S, Matsuyama Y, Takeuchi K, et al. Smoking, drinking, tooth loss and risk of oral-pharyngeal cancer mortality (2026)
喫煙・飲酒・歯の喪失と口腔咽頭がん死亡リスク
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41844505/ - 喫煙・飲酒に加え、「歯が少ない」ことが口腔咽頭がん死亡リスクを増大 | Science Tokyo – 東京科学大学
https://www.isct.ac.jp/ja/news/5li45551k7vc - Oral hygiene and cancer risk: emerging evidence and public health implications (2026)
口腔衛生とがんリスク:新たなエビデンスと公衆衛生上の意義
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12923711/ - Tsentemeidou A, Tsentemeidou E, Dinas K, et al. Human Papillomavirus Vaccine to End Oropharyngeal Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis (2021)
HPVワクチンは中咽頭がん予防につながるか:系統的レビューとメタアナリシス
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34110733/ - Kim M, Choi K, Kim SY, et al. The impact of HPV vaccination on the prevention of oropharyngeal cancer: a systematic review (2022)
HPVワクチンが中咽頭がん予防に与える影響:系統的レビュー
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34304398/
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
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