日本人の腸は”海藻仕様”?世界37カ国比較でわかった腸内細菌と全身のとのつながり

日本人5,000人超のデータと世界36カ国の比較から、日本人の腸内細菌には”海藻を分解する力”が特別に備わっていることがわかりました。さらに歯周病と腸内細菌の関係も最新研究で明らかに。「口活」が「腸活」につながる理由を歯科医師がわかりやすく解説します。
目次
- はじめに:腸活ブームの次は「口腸(こうちょう)連関」
- 日本人の腸が”海藻仕様”になったワケ
- 日本人の腸に多い「ビフィズス菌」と意外な理由
- 口と腸はつながっている?「口腸軸(oral-gut axis)」とは
- 歯周病になると腸内細菌叢まで乱れる:最新の日本の研究から
- 歯周病治療だけでは腸の乱れは戻らなかった
- 口腔マイクロバイオームと心臓病・生活習慣病のつながり
- 「口腸連関」の視点から考える食事の話
- 今日からできること:口と腸の健康をまとめて守るケア
- まとめ:「食べること」「磨くこと」は全身への投資
1. はじめに:腸活ブームの次は「口腸(こうちょう)連関」
「腸活」という言葉がすっかり定着して久しいですが、最近の研究が示しているのは、腸内環境はなにも「腸だけの問題」ではないということです。私たちが毎日使う口の中の細菌たちが、じつは腸内の細菌バランスにも大きな影響をおよぼしていることが、国内外の研究によって明らかになりつつあります。
さらに、「日本人の腸内細菌には海藻を分解する酵素遺伝子を持つ菌が圧倒的に多い」という、一見トリビアのような事実も、世界規模の比較研究で裏付けられました1,2。日本人の食文化が、腸内細菌を長い時間をかけて”育ててきた”ということを意味しています。
この記事では、「日本人の腸の特徴」と「口腔と腸のつながり(口腸軸)」を軸に、歯科医師の視点から、食事・歯みがき・歯科受診が全身の健康にどう結びついているかを解説します。
2. 日本人の腸が”海藻仕様”になったワケ
東京大学・東京医科大学・早稲田大学の共同研究グループは2026年2月、日本人5,000人超の腸内マイクロバイオームデータを世界36カ国・25,000人以上のデータと比較した大規模国際解析の結果を発表しました1,2。この研究は、科学誌『Proceedings of the Japan Academy, Series B』に掲載されています3。
その中で特に注目された発見のひとつが、「ノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子が、日本人の約90%の腸内細菌から検出された」という点です1,4。一方、欧米諸国では0〜16.7%程度と、日本との差は圧倒的です4。
この酵素を持つ腸内細菌は、海藻の繊維成分(ポルフィランやアガランなど)を分解する「専用の装備」を持っています。海藻に含まれる多糖類は、野菜や穀物の多糖とは化学的な構造が大きく異なるため、特別な酵素なしには消化・発酵できません1,5。日本人はノリ・ワカメ・コンブなどの海藻を日常的に食べ続けてきた文化の中で、腸内細菌が食習慣に適応し、特別な能力を獲得してきたと考えられています5,6。
これは、腸内細菌が「食文化と共に進化してきた」ことを示す代表的な例として、研究者たちが強調しているポイントでもあります2,3。
3. 日本人の腸に多い「ビフィズス菌」と意外な理由
同じ研究で明らかになったもうひとつの特徴が、日本人の腸内にビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在することです1。
ビフィズス菌は腸内環境を整え、有害菌の増殖を抑え、短鎖脂肪酸を産生するなど、健康に欠かせない細菌として知られています。日本人の腸にビフィズス菌が多い背景には、意外な理由があります。
それは「乳糖不耐性」です。日本人を含む非欧米系の多くの人々は、成人になると牛乳に含まれる「乳糖」を小腸で完全に分解できなくなります1,4。分解しきれなかった乳糖が大腸に届くと、今度はビフィズス菌がこれを栄養源として利用し、よく増えます1。一方、多くの欧米人は成人後も乳糖を消化できるため、牛乳を飲んでもビフィズス菌の増加にはつながりにくいのです4。
さらに興味深いことに、第二次世界大戦後の学校給食などを通じて日本で牛乳の摂取量が増えたことが、現在の日本人のビフィズス菌の豊富さの形成に関係している可能性も示唆されています1。「乳糖を分解しにくい遺伝的特性」と「牛乳を取り入れた近代の食習慣」が組み合わさった結果だということです。
4. 口と腸はつながっている?「口腸軸(oral-gut axis)」とは
「口腸軸(oral-gut axis)」とは、口腔内の細菌叢(口腔マイクロバイオーム)と腸内細菌叢(腸内マイクロバイオーム)が互いに影響し合うという概念で、近年の研究で急速に注目されています7,8。
口の中には1,000種類以上もの細菌が生息していると言われます9。私たちは毎日、唾液と一緒に大量の口腔内細菌を無意識のうちに飲み込んでいます。これまでは「胃酸や胆汁がバリアとなって、飲み込まれた口腔細菌は腸に届く前に死滅する」と考えられていました。しかし近年の研究で、健康な人でも多数の口腔細菌が腸内に存在していることが明らかになってきました7。
つまり口と腸は、文字通り「消化管」でつながっているだけでなく、細菌を通じた”対話”も日々おこなっているわけです。
口腔マイクロバイオームが乱れると(口腔ディスバイオーシス)、その影響が腸内細菌叢に波及し、全身的な炎症や代謝異常に関わるリスクが生じうる可能性があります8,9。特に歯周病は、この「口腸軸」を通じた全身への悪影響を考えるうえで中心的な存在として位置づけられています7,8。
5. 歯周病になると腸内細菌叢まで乱れる:最新の日本の研究から
2025年5月、理化学研究所・新潟大学・群馬大学などの国際共同研究グループが、歯周病患者の腸内細菌叢を解析した重要な研究を発表しました(掲載誌:Journal of Oral Microbiology)10,11。
この研究では、「歯周病以外に全身的な疾患のない患者」と「健康な人」の唾液と便中の細菌叢を網羅的に調べ、以下のことが明らかになりました10。
- 歯周病患者では、口腔(唾液)の細菌叢だけでなく、腸内細菌叢にも乱れが生じていた
- 歯周病患者の腸内では、健康維持に重要な「短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する細菌」の割合が顕著に減少していた11
- 腸内細菌叢の乱れは、血中の代謝物(セラムメタボローム)の変化とも連動していた11
短鎖脂肪酸(酪酸・酢酸・プロピオン酸など)は腸の粘膜を守り、炎症を抑え、免疫を調整する重要な物質です12。この産生細菌が減るということは、腸の”防御機能”が低下することを意味します。歯周病が単なる「歯ぐきの病気」にとどまらず、腸という全身の要にも影響を与えていることを示す、非常に重要な知見です10。
また、過去の研究でも日本の基礎研究グループが、歯周病原細菌(Porphyromonas gingivalis)を経口投与すると腸管上皮バリア機能が壊れ、腸炎が悪化することを動物実験で示しています13。
6. 歯周病治療だけでは腸の乱れは戻らなかった
さらに注目すべき発見があります。前述の2025年の研究(理研・新潟大など)では、歯周治療(スケーリングなどのプロフェッショナルケア)を受けることで、唾液中の細菌叢は改善したものの、腸内細菌叢への効果は限定的であったことも示されました10,11。
つまり、歯周病の治療で口の中のバランスを取り戻しても、一度乱れた腸内環境はそれだけでは元に戻りにくいことを意味します。研究グループは、歯周病と関連した腸内環境の改善には、歯周治療に加えて腸内マイクロバイオームそのものを標的にした補助的なアプローチが必要である可能性を指摘しています10,11。
この知見は、「歯周病を治せば万事OK」ではなく、歯周病をなるべく予防し、早期に対処することが全身的な健康管理においていかに大切かを示しています。
7. 口腔マイクロバイオームと心臓病・生活習慣病のつながり
口腸軸を通じた全身への影響は、腸だけにとどまりません。2025年発表のレビュー論文(掲載誌:npj Biofilms and Microbiomes)では、口腔−腸マイクロバイオーム軸が心血管疾患(CVDs)の発症に関わる重要なメカニズムとして位置づけられています7,8。
具体的には以下のメカニズムが示されています9。
- 歯周病などで乱れた口腔内細菌が血流に入り込み、全身性の炎症反応を引き起こす(菌血症)
- 口腔内の病原菌が腸管バリアの機能を弱め、腸内細菌のバランスを乱す
- 腸内細菌叢が乱れると、心臓病と関係するとされる代謝物「TMAO(トリメチルアミンN-オキシド)」の産生が増える可能性がある
- 口腔ディスバイオーシスによる免疫系への影響がサイトカインの放出を促し、動脈硬化を進める
2024年のアンブレラレビュー(41本のシステマティックレビューを統合した解析)でも、歯周病と心血管疾患の間に有意な関連が確認されており9、また毎日の歯磨きとフロスによる歯間清掃が2型糖尿病・高血圧の発症リスクを下げ、心血管疾患による死亡率を低下させるという結果も報告されています(観察研究の統合であり、因果関係の確定にはさらなる研究が必要です)9。
8. 「口腸連関」の視点から考える食事の話
ここまで読むと、「腸活にいい食事を摂ること」と「口の中の環境を整えること」は、実は表裏一体だということが見えてきます。
日本の伝統的な食事(和食)には、海藻・発酵食品・食物繊維が豊富な食材が多く含まれ、腸内細菌のバランスを保つうえで優れた構成になっていると考えられます6。「日本人の腸が海藻仕様」になったのも、まさにこのような食文化が数百年〜数千年にわたって積み重なった結果です2,5。
ただし、近年の日本では食生活の欧米化が進み、食物繊維の摂取量の減少が腸内細菌叢にも影響を与えているとされています6。こうした変化が、歯周病を含む口腔疾患や生活習慣病の有病率とどう関係しているかは、今後の研究でさらに明らかになっていく可能性があります。
注意点として、食事と口腔マイクロバイオームや腸内細菌叢の関係は、観察研究から得られた「関連」であり、「この食事を食べれば歯周病が治る」「腸内細菌が必ず改善する」という因果関係を直接的に示したものではありません。食事習慣はあくまで口腔・全身ケアの「補助」として捉えることが重要です。
9. 今日からできること:口と腸の健康をまとめて守るケア
口腔ケアとして
- 毎日の丁寧なブラッシングとフロス使用:プラーク(細菌の塊)を減らすことが、口腔ディスバイオーシスを防ぐ基本です9
- 定期的な歯科受診とプロフェッショナルケア:自宅ケアでは取り除きにくい歯石の除去と、歯周病の早期発見が重要です
- 歯周病の放置をしない:腸内細菌叢を乱し、全身に影響を与えるリスクがある以上、症状がなくても定期的なチェックが有効です10,11
食事として(現時点での研究に基づく参考情報)
- 海藻・野菜・発酵食品・食物繊維を意識的に取り入れる
- 精製糖質・超加工食品の過剰摂取を抑える
生活習慣として
- 禁煙(喫煙は口腔・腸内マイクロバイオームに悪影響を与えるとされる)
- 睡眠・ストレス管理(腸内環境や免疫機能と密接に関連する)
10. まとめ:「食べること」「磨くこと」は全身への投資
東京大学らの大規模研究が示したように、日本人の腸内細菌は海藻を消化する「海藻仕様」を備えており、和食という食文化と細菌が長い時間をかけて共進化してきたことがわかっています1,2。
一方、理研・新潟大学らの最新研究は、「歯周病になると腸内細菌叢まで乱れ、全身の代謝にも影響する可能性がある」という、口と腸のつながりの重要性を明確に示しました10,11。そして歯周治療だけでは腸内環境が完全には回復しなかったという事実は、「歯周病は予防することが何より大切」というメッセージを、改めて裏付けるものです。
口の健康と腸の健康は、切り離せない関係にあります。毎日の歯みがきと定期的な歯科受診は、「歯のためだけ」でなく、腸と全身の健康を守るための投資でもあるということを、ぜひ意識していただければと思います。
今の自分の歯ぐきの状態が気になる方、腸の不調と口の状態が関係していないか知りたい方は、ぜひ一度かわせみデンタルクリニックへご相談ください。
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参考文献
- The Japanese gut microbiome: ecology, uniqueness, and impact on health and disease(2026)
腸内マイクロバイオームの生態・特性・健康への影響:日本人における大規模解析
https://doi.org/10.2183/pjab.102.006 - 世界37カ国の大規模比較から見えた日本人腸内マイクロバイオームの特徴(東京大学プレスリリース, 2026)
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/0029170.html - About the Cover Vol. 102 No. 2 (2026) — The Japan Academy
日本学士院紀要102巻2号カバー解説:日本人腸内マイクロバイオームレビュー掲載号
https://www.japan-acad.go.jp/en/publishing/pja_b/cover/102/102_2.html - 日本人の腸内細菌叢、世界と異なる特徴は?(CareNet, 2026)
https://www.carenet.com/news/general/carenet/62443 - 腸内細菌の遺伝的アップグレード(かずさDNA研究所, 2022)
https://www.kazusa.or.jp/dna/worlds_dna_research/%E8%85%B8%E5%86%85%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%81%AE%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%89%EF%BC%88nl79%EF%BC%89/ - 医療を変える「マイクロバイオーム」(シスメックス学術セミナー)
https://scientific-seminar.sysmex.co.jp/ns3j92000000025y.html - The oral-gut microbiota axis: a link in cardiometabolic diseases(2025)
口腔-腸マイクロバイオーム軸:心臓代謝疾患へのつながり
https://www.nature.com/articles/s41522-025-00646-5 - The Oral–Gut–Systemic Axis: Emerging Insights into Periodontitis and Systemic Disease(2025)
口腔-腸-全身軸:歯周炎と全身疾患に関する新たな知見
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12609195/ - Oral Microbiome and Cardiometabolic Conditions(2025)
口腔マイクロバイオームと心臓代謝系疾患
https://www.ifm.org/articles/oral-microbiome-and-cardiometabolic - 口腔細菌叢の乱れは腸内細菌叢の乱れ―歯周病に罹患すると腸内細菌叢が乱れて全身に悪影響の恐れ(新潟大学プレスリリース, 2025)
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2025/849569/ - Patients with periodontitis exhibit persistent dysbiosis of the gut microbiota and distinct serum metabolome(2025)
歯周病患者は腸内細菌叢の持続的な乱れとセラム代謝物プロファイルの変化を示す
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12064113/ - Metabolic interplay of SCFA’s in the gut and oral microbiome(2025)
腸と口腔マイクロバイオームにおける短鎖脂肪酸の代謝的相互作用
https://www.frontiersin.org/journals/oral-health/articles/10.3389/froh.2025.1646382/full - 口腔-腸管連関の新展開:嚥下された歯周病原細菌は腸炎を悪化させるか?(科学研究費助成事業)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19K10126/
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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