骨隆起は歯ぎしり・食いしばり・TCHが原因か? – エビデンスを整理する


口蓋隆起・下顎隆起は歯ぎしりや食いしばりで生じるのか。一般歯科医師向けに、遺伝、咬合ストレス、ブラキシズム、TCHとの関係を整理します。1,2,3
目次
- 骨隆起をどう捉えるか
- 結論:単一原因ではなく多因子性
- 歯ぎしり・食いしばりとの関係
- TCHとの関係
- どれが一番リスクが高いのか
- それらがなくても骨隆起はできるか
- 臨床での説明ポイント
- かわせみデンタルクリニックのご案内
- 参考文献
1. 骨隆起をどう捉えるか
口蓋隆起(torus palatinus)と下顎隆起(torus mandibularis)は、いずれも口腔内にみられる良性の骨性隆起であり、日常臨床で偶発的に発見されることの多い所見です。2,3 下顎隆起は下顎小臼歯部舌側に両側性で出現しやすく、口蓋隆起は硬口蓋正中部にみられることが典型です。2,3
有病率は報告により幅がありますが、集団差・人種差・診断基準差が大きく、口蓋隆起・下顎隆起ともに一定頻度で遭遇する一般的所見といえます。3,4 この時点で重要なのは、骨隆起を「歯ぎしりだけでできるもの」と単純化しないことです。1,5,6
2. 結論:単一原因ではなく多因子性
現在の文献では、骨隆起の病因は多因子性と理解するのが最も妥当です。5,6,4 具体的には、遺伝的素因、咬合・咀嚼ストレス、パラファンクション、食習慣、局所環境などが相互に関与すると考えられています。5,6,3
家族集積や人種差の報告は、遺伝的背景の関与を強く示唆します。6,2,3 一方で、咬合負荷や咀嚼様式などの環境要因も無視できず、遺伝のみ・習癖のみのどちらか一方で説明するのは難しいというのが現在の整理です。5,6,4
3. 歯ぎしり・食いしばりとの関係
歯ぎしり・強い食いしばり、すなわちブラキシズムは、骨隆起との関連が最もよく議論されてきたパラファンクションです。1,7,8 2017年の系統的レビューでは、ブラキシズム徴候・症状と骨隆起の関連が検討され、特に異常咬耗とトーラス、とりわけ下顎隆起との関連が示唆されました。1
ただし、このレビューでは研究間の不均一性が大きく、自己申告ブラキシズムと骨隆起の関連は一貫しておらず、エビデンスの質は低いから非常に低いと評価されています。1 つまり、「ブラキシズムは有力な関連因子だが、因果関係が高い確度で証明された」とまでは言えません。1,5
一方、TMD患者や顔面痛患者を対象とした研究では、下顎隆起がパラファンクションの既往または現在の存在を示す補助所見になりうる可能性が報告されています。7,8,9 そのため一般歯科では、骨隆起を見つけたときにブラキシズム、咬耗、修復物破損、咬筋肥大、顎関節症状をまとめて評価する視点が実用的です。1,7,8
4. TCHとの関係
TCH(Tooth Contacting Habit)は、上下歯列の持続的な軽度接触癖であり、顎関節症の慢性疼痛の維持因子としては比較的よく知られています。10 しかし、TCHと骨隆起の関連を直接評価した高品質研究は今回確認できませんでした。
このため、「TCHが骨隆起の原因である」と断定する表現は避けるのが安全です。臨床的には、TCHが他のパラファンクションや咬合負荷と重なって長期的な機械的刺激に関与している可能性はありますが、それを裏付ける直接的エビデンスは現在のところ確認できていません。
5. どれが一番リスクが高いのか
「歯ぎしり・食いしばり・TCHのどれが最もリスクが高いか」という問いに対して、現時点の論文から明確な順位づけを示すことはできません。1,5,6 ただし、臨床的・文献的にみて、TCH単独よりも、強い咬合力を伴う歯ぎしりや食いしばりの方が骨隆起形成に関与する可能性は高いと考えるのが自然です。1,7,8
その理由は、骨隆起との関連が示されているのが主として異常咬耗、パラファンクション、TMD関連所見など「より強い機械的負荷」を示す指標だからです。1,7,9 一方で、発症全体としては遺伝的素因の寄与も大きいため、「一番高いのは歯ぎしり」と単純に言い切るより、「遺伝的素因に咬合ストレスが加わる構図」と説明する方が、現状のエビデンスに整合します。6,2,3
6. それらがなくても骨隆起はできるか
答えは「できる」です。5,6,2 家族集積や人種差、集団差が繰り返し報告されていることから、明らかな歯ぎしり・食いしばりがなくても骨隆起が形成されることは十分ありえます。6,2,3
また、咀嚼習慣や食文化、局所的な応力分布など、患者自身が自覚していない長期的負荷も関与しうると考えられています。5,4 したがって、骨隆起を見つけた際には「歯ぎしりがあるかないか」だけで判断せず、体質、咬耗、咬合、補綴歴、顎関節症状まで含めて全体像で捉えることが重要です。1,7,8
7. 臨床での説明ポイント
一般歯科の説明としては、次のような言い回しが使いやすいと思われます。1,5,6
- 骨隆起は悪いできものではなく、骨の形の一種であることが多い。2,3
- 原因は一つではなく、体質(遺伝)と噛む力の影響が重なってできると考えられている。5,6,4
- 歯ぎしりや強い食いしばりは有力な関連因子だが、それだけで全例を説明できるわけではない。1,7
- TCHは顎関節症との関連はあるが、骨隆起との直接的関係はまだはっきりしていない。10
対応としては、無症状であれば経過観察が基本ですが、義歯・マウスピース・舌感・粘膜外傷・発音・清掃障害などに影響する場合は対応を検討します。11,2,4 同時に、ブラキシズムや強いクレンチングが疑われる場合には、ナイトガード、TCHに対する生活習慣指導を含めて、骨隆起そのものよりも背景の咬合ストレス管理に目を向けるのが実践的です。11,10,12
8. かわせみデンタルクリニックのご案内
原因がはっきりしない歯の痛みや顎のだるさ、歯ぎしり・食いしばり・TCHが気になる方は、船橋のかわせみデンタルクリニックへご相談ください。当院では骨隆起の診断に加え、ブラキシズムやTCHを含むパラファンクション関連所見を総合的に評価しています。
9. 参考文献
- Association between signs and symptoms of bruxism and presence of tori(2017)
ブラキシズムの徴候・症状と骨隆起の存在との関連
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28213765/ - Mandibular tori – PMC(2015)
下顎隆起
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4527908/ - Prevalence and clinical characteristics of oral tori among outpatients and dental inpatients in a Malaysian population(2012)
外来・入院患者における口腔トーラスの有病率と臨床的特徴
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3941621/ - Torus mandibularis – obstacles and management: A review(2020)
下顎隆起の障害とマネジメントに関するレビュー
https://www.oraljournal.com/archives/2020/vol6issue2/PartG/6-2-60-280.pdf - Bilateral Mandibular Tori: A Case Report And The Brief Review(2018)
両側性下顎隆起の症例報告と簡潔なレビュー
https://dergipark.org.tr/en/download/article-file/4891648 - SPECIAL ISSUE(2024)
口蓋隆起・下顎隆起の病因と遺伝要因に関する特集
https://jummec.um.edu.my/index.php/jummec/article/download/43893/15660/110969 - Mandibular tori, migraine and temporomandibular disorders(1991)
下顎隆起、片頭痛、顎関節症の関連
https://www.semanticscholar.org/paper/Mandibular-tori,-migraine-and-temporomandibular-Clifford-Lamey - Associations between mandibular torus and types of malocclusion, temporomandibular disorders, and buccal exostosis(2021)
下顎隆起と不正咬合、顎関節症、頬側外骨症との関連
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8033698/ - TEMPOROMANDIBULAR DISORDERS CORRELATION WITH ORAL BONY EXOSTOSIS(2025)
顎関節症と口腔内骨性外骨症の関連
https://iasj.rdd.edu.iq/journals/uploads/2025/03/11/7adefae867adbef8bf2e7854d53b8c6e.pdf - Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorders(2006)
TCHが顎関節症患者の慢性疼痛に寄与する因子である可能性
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16913571/ - Mandibular Tori: Causes, Symptoms & Removal(2023)
下顎隆起の原因、症状、除去
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24830-mandibular-tori - Mandibular tori and parafunctional activity: case-based discussion(2024)
下顎隆起とパラファンクションに関する症例ベースの考察
https://assets.cureus.com/uploads/case_report/pdf/276619/20240908-741921-8ayftr.pdf
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。
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