ゴルフでマウスピースを使うと飛距離は伸びるのか?
はじめに:なぜこの話題が注目されているの?
ゴルフをする人なら一度は聞いたことがあるかもしれません。「マウスピースを使うと飛距離が伸びる」という話。この話題が大きく注目されたのは、2012年にプロゴルファーの尾崎直道選手が試合中にマウスピースを使用したことで失格になった事件がきっかけでした 1。

実際のところ、マウスピースは本当に飛距離アップに効果があるのでしょうか?今回は、科学的な研究結果をもとに、この疑問にお答えします 2,3。
研究結果は賛否両論:効果ありとなしに分かれている
「効果あり」とする研究
韓国の研究チームが8名のプロゴルファーを対象に行った実験では、興味深い結果が得られました。この研究によると、奥歯がしっかりと噛み合った状態でマウスガードを使用すると、クラブヘッドスピードと飛距離が有意に向上したのです 4。
日本でも、H型マウスガードという特殊なタイプを使った実験で、ドライバーショットの飛距離が伸びたという報告があります5。さらに、スイング中の頭の動きが約半分に抑えられ、より安定したスイングができるようになったことも確認されています 5。
「効果なし」とする研究
一方で、ドイツで14名の男性プロゴルファーを対象に行われた大規模な研究では、マウスピースの使用によるゴルフパフォーマンスへの体系的な影響は認められませんでした 6。飛距離、ショット精度、クラブヘッドスピード、ボールスピードなど、どの項目でも統計的に有意な差は見つからなかったのです6。
フランスの研究でも、6名のプロゴルファーを対象とした実験で、下顎整形外科用リポジショニング器具(MORA)を使用した場合の運動パターンに大きな違いは見られませんでした 7。ただし、インパクト時のボールスピードには有意差が認められ(p < 0.03)、器具使用時の方がより規則的であったと報告されています7。
大規模な分析で分かったこと
2023年に発表された大規模な研究レビューでは、4,785の論文から41の研究を選び出し、852名のアスリートのデータを分析しました 2,3。全体的には、マウスガード着用がスポーツパフォーマンスを向上させる傾向が見られましたが、研究によってバラつきが大きく、確実な結論を出すには情報が不足していることが指摘されています 2,8。
別の2019年の分析では、15の研究と312名のアスリートを対象とした結果、カスタムメイドマウスガードはアスリートのパフォーマンスに干渉もしないが、改善もしないという結論に達しています 9,10。この研究では、バイアスリスクが高い研究が多く、科学的証拠は慎重に解釈すべきであると結論づけています9。
なぜ効果があると言われるのか?体のメカニズムを探る
噛み合わせと体のバランス
研究によると、歯の噛み合わせが体のバランスに影響を与える可能性があります 11,12。適切な噛み合わせは重心の動揺を減らし、体の安定性を向上させるかもしれません。実際に、たった一本の歯の噛み合わせを変えるだけで、24時間後には体のバランスが変化することも報告されています 11。
顎を締める効果
顎をしっかりと締めることで筋力が向上するという報告もありますが、ゴルフのような複雑な動作にこの効果が本当に役立つかどうかは疑問視されています 3,12。マウスピースを装着することで顎関節の位置が変わり、筋肉の活性化パターンが改善される可能性があるという理論もありますが、さらなる研究が必要です 3。
実際に試した人の体験談
アマチュアゴルファーが実際にマウスピースを使って実験した結果では、飛距離への効果は確認できませんでした 13。むしろ、歯を食いしばってスイングすることで余計な力が入り、ミスショットが多くなる傾向が見られ、ヘッドスピードが上がっても、スピン量が増えて飛距離に変化がなかったと報告しています。
結論:現時点では「効果不明」が正解
現在の科学的証拠を総合すると、ゴルフでマウスピースを使うことによる飛距離向上効果は明確ではないというのが正直なところです 2,6,9。
なぜ結論が出ないのか?
- 研究方法がバラバラ:各研究で測定方法や条件が異なる 8
- 参加者が少ない:多くの研究で参加者数が限られている 7
- プラセボ効果:「効果がある」と思い込むことによる影響を排除するのが難しい 9
マウスピースの本当の役割
マウスピースの主な効果は、飛距離アップよりも以下の点にあると考えられています 14
- 歯や顎の保護:食いしばりによる負担を軽減 14
- 体のバランス改善:重心の安定化 3,11
- 歯科的問題の予防:歯ぎしりや歯の摩耗防止
もしマウスピースを使用する場合は、市販品ではなく、歯科医院でオーダーメイドで作ってもらうことが推奨されています3。
まとめ
「マウスピースで飛距離アップ」という話は、完全に否定されたわけではありませんが、科学的に確実な効果があるとも言えません 2,9。現時点では、飛距離向上を期待してマウスピースを使うよりも、基本的なスイング技術の向上や体力トレーニングに時間を費やす方が、確実にゴルフの上達につながるでしょう 6。
今後、より質の高い研究が行われることで、この問題により明確な答えが出るでしょう 2,8。
当院ではカスタムメイドのスポーツマウスガードも取り扱っています。ガイドラインで禁止されていることも含めゴルフのために作るのはおすすめしませんが、他のスポーツで必要な場合はご相談ください。
引用文献
- 尾崎直道が自ら暴露「これ使うと飛ぶ」で失格 – GDOゴルフニュース
- マウスガード着用がアスリートのパフォーマンスに及ぼす影響:系統的レビュー Knapik JJ, et al. “Influence of wearing mouthguards on performance among athletes.”
- マウスガードの種類、特性、スポーツ活動におけるパフォーマンスへの影響 Jiang Y, et al. “Mouthguard types, properties and influence on performance in sport activities: a narrative review“
- プロゴルファーの運動能力に対するマウスガードの効果 Pae A, et al. “The effects of mouthguards on the athletic ability of professional golfers.”
- 弘卓三, et al. “スポーツ用H型マウスガードの特性の検討.” [PDF]
- プロゴルファーの運動パフォーマンスに対する口腔運動活動の影響 Ringhof S, et al. “The effect of oral motor activity on the athletic performance of professional golfers.” [FULLTEXT]
- 下顎整形外科用整形器具がゴルフスイングの運動学的パターンに及ぼす影響 Egret C, et al. “Effect of mandibular orthopedic repositioning appliance on kinematic pattern in golf swing.”
- マウスガードの着用がアスリートのパフォーマンスに及ぼす影響:系統的レビュー “Influence of wearing mouthguards on performance among athletes: A systematic review“
- マウスガードが運動パフォーマンスに影響を与えないという十分な証拠はありますか?体系的な文献レビュー Ferreira GB, et al. “Is there enough evidence that mouthguards do not affect athletic performance? A systematic literature review.”
- あらゆる接触スポーツでマウスガードの使用を義務づけるべき時が来たのでしょうか? “Is it time to mandate mouthguards use in all contact sports?”
- 顎口腔系の状態変化が静的・動的立位バランスへ及ぼす影響
- 下顎整形外科的整復装置(MORA)がピンチグリップとフックグリップにおける前腕筋の活性化と握力に与える影響 Kim JH, et al. “Effect of the Mandibular Orthopedic Repositioning Appliance (MORA) on forearm muscle activation.“
- マウスピースを付けると本当に飛距離は伸びるの?実験してみた!
- スポーツ用マウスプロテクター(マウスガード)”Athletic Mouth Protectors (Mouthguards).” ADA(アメリカ歯科医師会)

