意外な関係? 歯周病が腎臓の健康を左右する
歯周病と聞くと、「歯ぐきから血が出る」「口臭が気になる」といったお口の中の問題を思い浮かべる方が多いかもしれませんね。 でも実は、この歯周病が、体の重要な臓器である「腎臓」の健康と、深く関係している可能性があるってご存知でしょうか?
今回は、一見すると関係なさそうな「慢性腎臓病(CKD)」と「歯周病」の驚きのつながりについて、わかりやすくご紹介します。
今回参考にした文献はこちら:慢性腎臓病と歯周病の関わり ミニレビュー 日本歯周病学会会誌 2022
医学雑誌におけるミニレビューとは、特定の医学分野における最近の研究成果を簡潔にまとめたもので、既存の研究を視野に入れつつ、著者の視点や専門知識に基づいて解説する記事のことです。
歯科医師向けの記事でしたので、この内容を一般向けに簡単に解説してみようと思います。
まずは知っておきたい「慢性腎臓病(CKD)」と「歯周病」
慢性腎臓病(CKD)ってどんな病気?
CKDは、「腎臓の働きが悪い状態が3ヶ月以上続く」病気の総称です。腎臓は、体の中の老廃物を尿として排出したり、水分の量を調節したりする大切な臓器です。CKDが悪化すると、最終的には「末期腎不全」という状態になり、人工透析(機械で血液をきれいにする治療)が必要になることがあります。 CKDの患者さんは世界的に増えていて、日本でも1330万人以上がCKDの疑いがあると言われています。CKDは、心臓病などの他の病気のリスクも高めることが知られています。
歯周病ってどんな病気?
歯周病は、歯を支える歯ぐきや骨が、歯周病菌によって壊されていく病気です。初期は自覚症状が少ないため気づきにくいですが、進行すると歯がグラグラしたり、最終的には抜け落ちてしまうこともあります。
腎臓病と歯周病の驚きの関係とは?
「歯周病とお口の中だけの問題じゃないの?」と思うかもしれません。しかし、近年の研究では、この二つの病気が密接に関わっていることが明らかになってきています。
•大規模な調査で判明:アメリカで行われた大規模な疫学調査では、重度の歯周病がある人は、腎臓病(CKD)になるリスクが有意に高いことが報告されています。
•メタ分析でも裏付け:さらに多くの研究をまとめた「メタ分析」という手法でも、歯周病患者さんは、そうでない人に比べてCKDになるリスクが約2~3倍も高いことが示されています。
このように、多くの研究で歯周病とCKDの関連が指摘されているのです。
歯周病治療が腎臓にも良い影響を与える可能性
では、歯周病を治療すると腎臓にも良い影響があるのでしょうか? いくつかの研究では、その可能性が示唆されています。
•腎機能の改善も期待?: 歯ぐきの深い部分の汚れを取る「スケーリング・ルートプレーニング(SRP)」という歯周病治療を行ったCKD患者さんでは、治療後3ヶ月で腎機能の指標であるGFR(糸球体ろ過量)が改善したという報告があります。他の研究をまとめたメタ分析でも、歯周病治療によってGFRが改善すると結論付けられています。
•全身の炎症を抑える効果も!: CKD患者さんは、体の中で慢性的な炎症が起きていることが多いのですが、歯周病治療によって、炎症のマーカー(CRPやIL-6など)が有意に低下したという報告も複数あります 。これは、歯周病が全身の炎症の原因の一つになっていることを示唆しています。
これらの結果から、歯周病を治療することが、腎臓病の悪化を防いだり、全身の炎症を抑えたりする助けになる可能性があると考えられます。
人工透析を受けている方にとっては特に重要!
CKDが進行して人工透析が必要になった患者さんにとって、お口のケアはさらに大切です。
•口の中のトラブルが多い:透析患者さんは、お口の中が乾きやすかったり、歯科との連携が十分でない場合があるため、歯周病をはじめとするお口の病気を持っている方が非常に多いことが知られています 。実際、透析患者さんの56.8%が歯周病にかかっているという報告もあります 。
•炎症や生存率にも影響:人工透析患者さんは全身の炎症状態にあることが多いのですが、歯周病があるとその炎症がさらに高まる傾向が見られます 。また、ある研究では、歯周病が重度であるほど、またお口の清掃状態が悪いほど、生存率が低い傾向があることが示されました。お口の清掃状態が悪いと、3年間の死亡リスクが3倍以上高くなるというデータもあります。 このことから、透析患者さんにとって、お口の健康は全身の状態、さらには生命予後にも影響を与える可能性があると考えられています。
なぜ腎臓病と歯周病は関係があるの?メカニズムは未解明な部分も
詳しいメカニズムはまだ研究段階ですが、主に二つの可能性が考えられています。
1.全身の炎症や血管への影響:歯周病菌や、歯周病によってお口の中で作られる炎症を起こす物質が、血管を通じて全身に広がり、腎臓に悪影響を与える可能性があります 。また、活性酸素による酸化ストレスも腎臓を傷つける要因となるかもしれません。
2.糖尿病を介した影響:慢性腎臓病の原因として多いのが糖尿病性腎症です。歯周病は、インスリンの効きを悪くする「インスリン抵抗性」を介して糖尿病の発症や悪化に関わっていることが知られています 。そのため、歯周病が血糖コントロールを悪化させ、それが腎機能に影響を与えている可能性も考えられます。
逆に、腎臓の機能が低下すると、体の免疫力が下がったり、骨の代謝に異常が出たりして、歯周病が悪化しやすくなる可能性も指摘されています。
私たちにできること
今回の内容で、「歯周病は単なるお口の問題ではないんだ!」と感じていただけたでしょうか?
歯周病も慢性腎臓病も、加齢、喫煙、糖尿病など、共通のリスク要因が多い病気です。 お口の健康は、全身の健康と深くつながっています。腎臓病の予防や悪化を防ぐためにも、そして全身の健康を維持するためにも、日頃からの丁寧な歯磨きと、定期的な歯科検診がとても大切です。
- 毎日しっかり歯磨きなどの口腔ケアをする
- 定期的に歯科医院で検診を受ける
- 歯周病と診断されたら、きちんと治療を受ける
これらの対策が、皆さんの大切な腎臓を守り、全身の健康を維持する第一歩になるかもしれません。歯周病に限らず気になる症状があれば、早めにご相談くださいね。

