歯並びは子どもにどう影響するか? ~学業、自信、いじめの関連性~
歯並びの悪さ、いわゆる「不正咬合」は、見た目の問題だけでなく、日々の生活、特に子どもの学業成績や心理状態、いじめとの関連性について研究が行われています。しかし、その関係性は単純ではなく、いくつかの異なる見解が示されています。
1. 学業成績への影響
全体として、不正咬合そのものが学業成績と直接的に強く関連するという一貫した結果は出ていません。しかし、特定のタイプの不正咬合や、それによって引き起こされる心理的な側面が影響を与える可能性が示唆されています。
歯列叢生(歯のデコボコ)と学業成績
モンゴルの子どもたちを対象とした研究では、歯列叢生(歯がデコボコに生えている状態)がある場合、特に美術と体育の成績が下がる傾向があることが示されました。これは、不正咬合全般ではなく、特定のタイプの歯並びが影響する可能性を示唆しています。[1]

なぜ成績に影響する可能性が?
歯列叢生は頭痛を引き起こしたり、噛み合わせの接触が減少することで三叉神経からの刺激が減り、認知機能に影響を与える可能性(生物学的経路)が考えられています。また、美術や体育の科目では、絵を描いたり、楽器を演奏したり、手作業をしたりといった「微細運動能力」が必要とされるため、歯並びの状態がこれらの能力に影響する可能性も指摘されています。見た目の問題が、感情的な幸福感や自己肯定感の低下を通じて、学業成績に間接的に影響する社会的経路も考えられます。[1]
心理的影響と学業成績
不正咬合そのものよりも、不正咬合によって心理的な影響(心理社会的影響質問票:PIDAQで評価される、見た目に対する不安や心理的ストレスなど)を感じている子どもたちは、学業成績が悪い傾向にあることが報告されています。特に、男子生徒、虫歯経験のある生徒、歯科矯正治療の必要性がある生徒でこの傾向が見られました。このことから、歯並びの見た目に対する本人の感じ方が、学業に影響を与える重要な要因であると考えられます。[2]
関連性がないという報告
一方で、歯科矯正治療の必要性と学業成績の間に、統計的に有意な差は見られなかったという研究もあります。これは、使用された評価指標(DAI: Dental Aesthetic Index※)の違いや、対象となった不正咬合の重症度によるのかもしれません。[3]
※DAIは、以下の項目(前歯の空隙、前歯の反対咬合、前歯の開咬、上下顎の不正咬合、過蓋咬合、叢生、上顎前突、下顎前突)に基づいて不正咬合を評価します。これらの項目を数値化し、合計点で不正咬合の重症度を判定します。DAIは、主に疫学調査や臨床研究で使用され、矯正治療の必要性を評価するためのツールとして活用されています。
2. いじめへの影響
不正咬合があることが、いじめの被害者になる可能性を高めるという強い科学的根拠は、今のところ見つかっていません。複数の研究をまとめた系統的レビューとメタアナリシスでは、不正咬合といじめの間に有意な関連は見られませんでした。[4]
「歯」はいじめのターゲットになりやすい
ただし、同じ系統的レビューでは、いじめのターゲットとして「歯」が最も一般的であると特定されています。[4]これは、歯並びの見た目がいじめのきっかけになることはあるものの、それが必ずしもいじめの被害者になるかどうかの決定的な要因ではないという、複雑な状況を示唆しています。
関連性がないという報告
DAIという指標で測定された歯科矯正治療の必要性がいじめの有無を決定する要因ではない、と結論付けている研究もあります。[3] これは、DAIに臼歯部の特徴も含まれるため、外見に影響を与えない可能性があり、結果としていじめや自尊心、学業成績に影響を及ぼさない可能性があると考察されています。
自己肯定感との関連
不正咬合の有無よりも、自己肯定感の低さがいじめと関連している[4]という見解も示されています。これは、心理的な要因がより重要である可能性を示唆しています。
3. 自己肯定感(自尊心)への影響
不正咬合は、子どもの感情的な幸福や自己肯定感に関連すると報告されています。[1]しかし、歯科矯正治療の必要性(DAIで評価)と自己肯定感のスコアの間に、統計的に有意な差は見られなかったという研究結果[3]もありますが、この点についても、不正咬合の種類(例えば外見に影響を与えないもの)や、本人の感じ方によって影響が異なる可能性があります。
まとめ
これらの研究を総合すると、歯並びの悪さ(不正咬合)が、子どもの学業成績や心理面、いじめに与える影響は、一概には言えない複雑な関係性であることがわかります。
不正咬合全体と学業成績の間に直接的な関連は明確ではありませんが、歯がデコボコに生えている「歯列叢生」は、特に美術や体育の成績低下と関連する可能性が示唆されています。[1]
不正咬合そのものよりも、本人が歯並びの見た目に対して感じる「心理的な不快感」が、学業成績の低下につながる可能性があります。
不正咬合がいじめの被害者になる可能性を直接的に高めるという強い根拠は、現時点では見つかっていません。しかし、いじめのターゲットとして「歯」がよく挙げられる[4]という事実は注目に値します。
これらの研究は、不正咬合が子どもたちの生活に与える影響を理解する上で重要ですが、今回の研究だけでは因果関係を断定することはできず、今後、さらに詳しい調査や、治療が実際に学業成績や心理面にどのような影響を与えるかを検証する研究(例えば、ランダム化比較試験など)が求められています。
引用文献
- モンゴルの青少年における不正咬合と学業成績の関連性 Badrakhkhuu et al., (2021). Association Between Malocclusion and Academic Performance Among Mongolian Adolescents. Frontiers in Dental Medicine, 1, 623768.
- 不正咬合の心理社会的影響と学業成績 Silva et al., (2022). Psychosocial impact of malocclusion in the school performance. A Hierarchical Analysis. Community Dental Health, 39(3), 211-216.
- 学童の学業成績、自尊心、いじめに対する歯科矯正治療の必要性の影響 Marcos et al., (2019). Impact of the need for orthodontic treatment on academic performance, self-esteem and bullying in schoolchildren. Journal of Oral Research, 8(2), 99-103.
- 不正咬合が学童および青少年のいじめに与える影響:系統的レビューとメタアナリシス Djessyca et al., (2022). Impact of malocclusion on bullying in school children and adolescents: A systematic review and meta-analysis. Children and Youth Services Review, 142, 106636.
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