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歯科衛生士の職業病とは?首肩・手首の痛み、耳、燃え尽き、エアロゾルと予防策

歯科衛生士の職業病は、歯石取りなど口の中の細かい処置を毎日続けることと深く関わっています。負担は報告の多い順に首・肩・腰、手首と指、耳、心にかかり、しぶきにも備えが要ります。

歯科衛生士に起こりやすい職業病と部位(首・肩、腰、手首・指、耳、脳、口・鼻)
図:歯科衛生士に起こりやすい職業病と部位(番号は本文の調査で報告された割合が高い順の目安。調査ごとに対象と数え方が違う)。
目次
  1. 首・肩・腰の痛みと、口をのぞき込む姿勢
  2. 歯石取りによる手首・指の痛みと手根管症候群
  3. 超音波スケーラーの音と聴こえにくさ
  4. 心の負担と、健康を理由にした離職
  5. 超音波スケーラーのしぶき(エアロゾル)と吸引
  6. 本人と職場でできる予防策
  7. まとめ:歯石取りを続けられる体と職場をつくる

首・肩・腰の痛みと、口をのぞき込む姿勢

口の中をのぞき込む姿勢が続くため、ある調査では歯科衛生士の8割以上が首の痛みを経験していました。オーストラリアの歯科衛生士560人の回答を分析した調査では、過去1年に首の痛みを経験した人が85%、肩の痛みが70%、腰の痛みが68%でした1。首の痛みがあった人の60.7%は日常生活にも影響が出て、56.5%は医療機関などで治療を受けていました。首が痛む人は肩や腰も痛めやすく、痛みは1か所にとどまりません1。

日本でも同じ傾向が見られます。岡山県と広島県の歯科衛生士169人の調査(回答率は約4分の1)では、過去1年に腰痛があった人が76.3%で、調査の時点で腰が痛かった人も43.2%いました。一方で、腰痛のあった人のうち整形外科を受診したり理学療法を受けたりしたのは15.5%でした2。痛みを抱えたまま働き続ける人が多いことが分かります。

姿勢による負担は、学生のうちから始まります。歯科衛生士を目指す学生24人がルーペ(拡大鏡)を着けて30分の歯石取りをした研究では、全員の首が20度を超えて前に傾き、3人に1人は有害な範囲の角度に達していました3。

歯石取りによる手首・指の痛みと手根管症候群

細い器具をつまみ続ける手首と指には、歯石取りの負担が直接かかります。手根管症候群は、手首の中を通る神経が圧迫されて、指のしびれや痛みが出る病気です。

米国で歯科衛生士95人に神経の検査まで行った研究では、手根管症候群と確認されたのは8.4%でした。症状だけで数えると42%にのぼります4。別の研究では、歯科衛生士305人のうち、神経の検査で手根管症候群と診断されたのは3%で、一般の人と同じくらいでした。それでも腱の炎症を含めると、28%に手や腕の病気が見つかっています5。診断に至る人は限られても、手のしびれや痛みを抱える人が多い仕事です。

負担の大きさは、歯石の量と関わります。米陸軍の歯科衛生士177人の調査では、歯石の多い患者さんが診療の半分を超える人は、そうでない人に比べて、手の不調を抱えるリスクが2.3倍でした6。カナダの歯科衛生士2,142人に送った調査では、手根管症候群の基準に当てはまるリスクが、歯石を取らない歯科助手の3.7倍でした7。

超音波スケーラーの音と聴こえにくさ

聴こえにくさを自覚する歯科衛生士は多く、年齢の影響と見分けるためにも聴力を測っておくことが大切です。米国カリフォルニア州で、免許を取って20年以上たつ歯科衛生士372人に聞いた調査では、40%が聴こえにくさを感じていました。17%は超音波スケーラーが原因と考えており、スケーラーを多く使う人ほど聴こえにくさを訴える傾向がありました8。

歯科の診療室の音を測った研究では、平均は63.6dBAで、最も大きな場面では103.5dBAでした。8時間の平均に直すと、騒音の基準の85dBAを超えた測定は約4%でした9。毎日の仕事の中に、大きな音を間近で聞く時間があります。

ただし、先の調査に答えた人の平均年齢は56歳で、回答したのは調査を送った人の35%でした8。28の研究をまとめたレビューでは、歯科の音は基準を超えることがあるものの、超音波スケーラーで聴力が長く下がる例は少ないとしています10。年齢による変化も重なるため、耳鳴りや聴こえにくさに気づいたら、早めに耳鼻咽喉科で聴力を調べるのが良いでしょう。

心の負担と、健康を理由にした離職

体の負担と心の負担は重なり、自分の健康を理由に職場を離れる歯科衛生士もいます。日本歯科衛生士会が2024年に会員5,385人(回答率35.5%)から回答を得た調査では、仕事のストレスを「非常に」または「まあ」感じている人が67.1%でした11。

同じ調査で、仕事を替えたいと考えた理由は給与・待遇が46.5%で最も多く、自分の健康を挙げた人も23.1%いました。すでに歯科衛生士の仕事を辞めた人では、最後の職場を辞めた理由に自分の健康を挙げた人が21.6%で、前回の調査の14.4%より高くなっていました11。

米国カリフォルニア州の歯科衛生士443人の調査では、30.9%が燃え尽き(意欲がすり減り、疲れ切った状態)にありました。職場で感謝されていると感じる人ほど、気持ちのすり減りが小さい傾向でした12。米国の別の調査では、感情面の負担は燃え尽きに結びつき、体の負担が大きい人ほど臨床の仕事をやめることを考える傾向がありました13。

超音波スケーラーのしぶき(エアロゾル)と吸引

超音波スケーラーを使うと口から約2メートルの範囲まで空気中の細菌が増えるため、吸引でしぶきを減らすことが大切です。超音波スケーラーは先端を水で冷やしながら振動させるので、唾液や血液を含む細かいしぶき(エアロゾル)が出ます。複数の試験をまとめた分析では、超音波スケーラーを使うと、患者さんの口から約2メートルの範囲まで空気中の細菌が増えました14。

新型コロナの流行期の研究をまとめた分析では、感染していた人の割合は、歯科医師と歯科衛生士を合わせて12.7%で、歯科助手の5.2%と比べて2倍以上でした15。歯科医師と歯科衛生士は、どちらも患者さんの口元で処置をする職種です。

日本では、新型コロナの流行期(2020〜2021年ごろ)に、歯科治療を通じて感染が広がった例はほとんど報告されていません。日本歯科医師会が都道府県歯科医師会を通じて集めた報告では、2021年11月末までに歯科衛生士の感染が256件報告されました。一方で、歯科治療を通じて感染が広がったことが明らかな事例は、6回の調査のどれにも報告されていません16。全国の大学病院の歯科・口腔外科51診療科の調査と、長野県の歯科医師384人の調査でも、患者から職員への感染は確認されませんでした17,18。大学病院の調査では、しぶきの出る処置で、9割を超える診療科が口腔外バキュームとサージカルマスクを使っていました17。どれも報告や質問票を集めた結果です。

日本の研究では、口の中のバキュームに加えて、口の外で吸う口腔外バキュームも使うと、飛び散るしぶきの量が大きく減りました19。日本歯科医師会のガイドラインでも、口の中のバキュームを確実に使い、口腔外バキュームも活用するのが望ましいとしています。目はゴーグルかフェイスシールドで守ります20。吸引で職員の感染まで減るかを調べた研究は、2020年のコクランレビューでは見つかりませんでした21。それでも、吸引でしぶきが減ることは日本の実験で確かめられていて、取り入れやすい対策です19。

本人と職場でできる予防策

手の負担は道具で、作業の姿勢はルーペで、耳としぶきは装置と保護具で備え、心の負担には職場での感謝の言葉が手がかりになります。

本人ができることは、まず道具と姿勢を見直すことです。歯石取りの模擬実験では、柄の直径が10mm、重さが15gの器具で、前腕の筋肉への負担とつまむ力が最も小さくなりました22。ルーペは作業の姿勢を良くします23。ルーペを6か月着けた歯科衛生士では、腕・肩・手の症状が軽くなりました24。首の痛みについては、差が出なかった研究があり、効果ははっきりしません25。耳には、会話を妨げない電子式の保護具が勧められています10。手のしびれが続くときは整形外科、耳鳴りや急な聴こえにくさがあるときは耳鼻咽喉科を早めに受診しましょう。

職場ができることは、設備を整えることと、予約の組み方を工夫することです。口腔外バキュームとゴーグルやフェイスシールドは、院長が導入を決める設備になります。歯石の多い患者さんを担当することが多い人ほど手の不調が多かったので6、そうした予約が1人に偏らないように組むのも1つの方法です。感謝されていると感じる人ほど燃え尽きが少なかったことから12、院長や歯科医師が日ごろの仕事に感謝を言葉で伝えることも、長く働ける職場をつくる手がかりになります。

まとめ:歯石取りを続けられる体と職場をつくる

歯科衛生士の職業病は、本人の道具選びと職場の設備・予約の組み方の両方で、負担を減らす工夫ができます。研究の多くは米国やオーストラリアのもので、日本の歯科衛生士の調査は腰痛と働き方のものに限られました。

  • 首・肩は、ルーペで作業の姿勢を良くし、首・肩・腰の痛みが続けば受診する。
  • 手首・指は、模擬実験で負担が小さかった柄の直径10mmほどの軽い器具を選び、歯石の多い予約を1人に偏らせない。
  • 耳は、会話を妨げない保護具を使い、耳鳴りに気づいたら聴力を調べる。
  • 心の負担は、院長や歯科医師が日ごろの仕事への感謝を言葉にすることが手がかりになる。
  • しぶきは、口の中と外のバキュームで減らし、目を守る。

関連記事

参考文献

  1. Hayes MJ, Smith DR, Taylor JA. Musculoskeletal disorders and symptom severity among Australian dental hygienists. BMC Res Notes. 2013;6:250.
  2. 森下元賀, 久本千佳, 三好早苗. 歯科衛生士の腰痛有症者の実態と関連因子. 日本産業保健理学療法学雑誌. 2024;2(2):29-39.
  3. Stambaugh JE, Calleros C, Siegel P, et al. Evaluating the prevalence of musculoskeletal neck pain in dental hygiene students. J Dent Hyg. 2021;95(2):58-62.
  4. Anton D, Rosecrance J, Merlino L, et al. Prevalence of musculoskeletal symptoms and carpal tunnel syndrome among dental hygienists. Am J Ind Med. 2002;42(3):248-257.
  5. Werner RA, Hamann C, Franzblau A, et al. Prevalence of carpal tunnel syndrome and upper extremity tendinitis among dental hygienists. J Dent Hyg. 2002;76(2):126-132.
  6. Lalumandier JA, McPhee SD. Prevalence and risk factors of hand problems and carpal tunnel syndrome among dental hygienists. J Dent Hyg. 2001;75(2):130-134.
  7. Liss GM, Jesin E, Kusiak RA, et al. Musculoskeletal problems among Ontario dental hygienists. Am J Ind Med. 1995;28(4):521-540.
  8. Lazar A, Kauer R, Rowe D. Hearing difficulties among experienced dental hygienists: a survey. J Dent Hyg. 2015;89(6):378-383.
  9. Burk A, Neitzel RL. An exploratory study of noise exposures in educational and private dental clinics. J Occup Environ Hyg. 2016;13(10):741-749.
  10. Henneberry K, Hilland S, Haslam SK. Are dental hygienists at risk for noise-induced hearing loss? A literature review. Can J Dent Hyg. 2021;55(2):110-119.
  11. 日本歯科衛生士会. 第10回 歯科衛生士の勤務実態調査報告書. 2025.
  12. Bercasio LV, Rowe DJ, Yansane AI. Factors associated with burnout among dental hygienists in California. J Dent Hyg. 2020;94(6):40-48.
  13. Malcolm N, Boyd L, Giblin-Scanlon L, et al. Occupational stressors of dental hygienists in the United States. Work. 2020;65(3):517-524.
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  15. Schwarz KM, Nienhaus A, Diel R. Risk of SARS-CoV-2 infection in dental healthcare workers – a systematic review and meta-analysis. GMS Hyg Infect Control. 2024;19:Doc09.
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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