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電子カルテで紙と手間を減らすには、何を一緒に電子化すればよいのか

電子カルテを入れるだけでは、紙と手間は減りません。診療録に加えて診療補助記録(診療録とは別に残る記録や書類)や問診票もまとめて電子化してこそ、業務の負担を減らすことにつながります。得られる利点の大きさは、紙の保管場所に今どれほど困っているかによって変わります。

目次
  1. 電子カルテを入れれば、紙は自然に減るのか
  2. どの紙まで電子にすれば、手間は減るのか
  3. 通院中の患者さんの紙を取り込むのに、どれだけの時間がかかるのか
  4. 診療ユニットと受付にタブレットを置くと、初期費用はいくらになるのか
  5. 電子カルテを入れると、加算や補助で医院に入るお金はあるのか
  6. 紙の置き場に困っている医院と困っていない医院で、移行の利点はどう違うのか
  7. 自院の利点は何を確かめれば見積もれるか

1. 電子カルテを入れれば、紙は自然に減るのか

電子カルテを入れるだけでは、紙は減りません。

厚生労働省による歯科情報の利活用推進事業の報告書では、歯科診療所向けアンケートの結果をもとに、約50%、つまり半数の診療所が診療録の原本を紙で保管している実態を整理しています。システム上で診療録を作成した場合でも、紙に出力して保管するケースが多いと同報告書は示しています。1実際に電子カルテを導入していながら、診療録の原本を紙で保存している診療所も確認されました。1

同報告書は、歯科技工指示書や診療情報提供書、予約関連情報、請求業務が紙やFAXを前提に運用されている点を課題として挙げています。1そのうえで、カルテだけを電子化しても従来の運用とあまり差がなく、大きな利便性の向上を実感しにくいと指摘しているのです。1

このように、電子カルテを導入した後も、院内には紙が残ってしまいます。何を一緒に電子にするかを決めないまま入れても、紙は自然には減りません。

2. どの紙まで電子にすれば、手間は減るのか

診療録に加えて、自院で決められる診療補助記録と問診票を電子にすると、診療録まわりの紙と電子の二重管理がなくなります。

診療補助記録とは、診療録とは別に医院に残る紙の記録や書類のことで、代表例は次のとおりです。

  • 歯科衛生士の業務記録
  • 歯周検査記録
  • 物品販売で勧めて購入されたもの
  • 見積書
  • 同意書
  • 紹介状、照会状
  • 健康診断結果のコピー
  • おくすり手帳のコピー

このうち、紹介状と照会状は外へ送る紙なので、後で分けて扱います。

診療録だけを電子にして、診療補助記録や問診票を紙のまま残すと、記録が紙と電子の2か所に分かれる二重管理になってしまいます。診療のたびに紙の記録を保管棚から取り出す作業(カルテ出し)も、そのまま残るため手間は減りません。診療録を電子化したにもかかわらず業務は減らず、探す場所が増えた分だけ、かえって負担が増えてしまうのです。ペーパーレス化と合わせて進めないと、電子カルテの利点は受け取りにくくなります。

電子化する紙については、自院の都合だけで決められる書類と、やり取りする相手がいる書類に分けて整理するとわかりやすいでしょう。

  • 自院で決められる紙: 診療補助記録(紹介状と照会状を除く)、問診票
  • 相手のある紙: 紹介状、照会状、歯科技工指示書

報告書によると、歯科技工指示書は約90%が紙で作成・保管されています。1その背景には、連携先の技工所などでデジタルデータの受け取り体制が完全には進んでおらず、紙のほうが確実に処理できるという認識が根強く残っていることがあります。1技工所側が電子で受け取れるかどうかに左右されるため、自院の判断だけで電子化を進めることはできません。外部の医療機関へ送る紹介状や照会状も同様であり、相手側が電子で受け取れるかどうかに結果が左右されるのです。同報告書は、個別の文書を単独で電子化するのではなく、作成側と受け取り側の双方が一体となって電子化を進め、紙による運用が業務の中から自然と減っていく構造を設計する必要があると提言しています。1

問診票を電子化する場合、患者さんの回答が電子カルテのどの欄に反映されるかが重要な点となります。患者さんが入力した内容がそのまま診療録へ入るのか、それともスタッフが転記する必要があるのかによって、手間の減り具合が大きく変わるためです。院長や管理者が見積りの段階で「問診票の回答は、電子カルテのどの欄へ入りますか」と事業者に尋ねておくとよいでしょう。事前に確認しておけば、導入後にスタッフが写し直す手間を防げるはずです。

3. 通院中の患者さんの紙を取り込むのに、どれだけの時間がかかるのか

取り込みの作業量は、通院中の患者さんの人数、1人あたりの紙の枚数、1枚あたりの時間を掛けると見積もれます。仮に500人、20枚、30秒なら約83時間です。

紙と電子の二重管理を避けるには、少なくとも通院中の患者さんの紙カルテを取り込む作業が欠かせません。この作業は通常の診療時間の合間を縫って進めることになるため、現場のスタッフにかかる負担が増えます。

仮に、通院中の患者さんが500人で、1人あたり20枚、1枚あたり30秒とします。すると全体で10,000枚、300,000秒になり、時間にして約83時間です。診療の合間に1週間で5時間ずつ作業を進めたとしても、完了までに約17週かかります。実際の枚数や作業時間は医院ごとに異なるため、まずは数人分を実測して自院の数字に置き換えてみるとよいでしょう。

仮に診療時間外に作業を進めるのであれば、その拘束時間に応じた賃金をスタッフへ支払う必要があります。法定の労働時間を超える分については、通常の賃金に2割5分以上を上乗せした割増賃金を支払わなければなりません。2そのため医院の勤務形態によっては、取り込み作業に伴って追加の残業代が発生することになります。

4. 診療ユニットと受付にタブレットを置くと、初期費用はいくらになるのか

診療ユニットが3台で受付が2台なら、端末は5台で、Apple公式の価格では端末だけで37万円台、ペンを3本付けると41万円台です。

タブレット端末は、日々の診療を行うユニットごとに1台ずつ配置する必要があります。さらに問診票まで電子化するのであれば、受付用にも数台を確保しなければなりません。

Apple公式で2026年10月1日に確認した価格によると、11インチiPad(A16)の128GBが74,800円から、Apple Pencil(USB-C)が14,800円となっています。3,4受付に2台、診療ユニットに3台の計5台を導入する場合、74,800円×5台で端末代金は374,000円の計算です。さらに診療ユニット3台にペンを付けると、14,800円×3本の44,400円が加わり、合計費用は418,400円まで膨らみます。価格は時期によって変動するため、実際に見積りを取る時点の最新価格に置き換えて計算するとよいでしょう。

導入する端末は、台数、ペンの要否、バッテリーの持ち、機器更新の周期という4つの視点から選ぶとよいでしょう。初期投資に加えて、バッテリーの劣化や機種の更新があるため、端末まわりの費用は紙カルテより上がりえます。

厚生労働省の資料を見ても、電子カルテ未導入の歯科診療所では、導入や運用にかかる費用の高さが主な障壁となっています。導入の動機になり得る事項としては、月額利用料や保守費用が大きく増えないことと並び、手持ちの端末や周辺機器を活用して機器更新費用を抑えられる点が上位に挙がりました。5

5. 電子カルテを入れると、加算や補助で医院に入るお金はあるのか

確かめられた収入は、届出をした医院の診療報酬の加算で、初診のとき月1回、加算1が9点、加算2が4点です。電子カルテそのものが売上を増やす仕組みは、確認した資料にありません。歯科での端末への補助は、対象かどうかが分かりません。6,7,8,9

歯科の点数表には、電子的歯科診療情報連携体制整備加算が設けられています。届出をした医院が初診を行ったときは、月1回に限り、加算1で9点、加算2で4点を算定できる仕組みです。再診では、月1回に限り2点と定められています。6月の初診患者の人数に9点または4点を掛ければ、初診分の点数を自院の規模に合わせて試算できるでしょう。仮に月の初診が100人なら、加算1で900点、加算2で400点という計算になります。

この加算の条文には、届出をしない医院の点数を下げるような減算の規定はありません。点数表の本文にも、改正を定めた告示の制定文にも、この加算に終期を定める記述は見当たりません。6条文は届出をした医院に加算を付ける書き方となっており、2026年6月1日から適用されています。6令和8年度の診療報酬改定では、医療DX推進体制整備加算等が廃止され、電子的歯科診療情報連携体制整備加算などで評価する形に改められました。7

端末への補助については、今のところ歯科が対象に含まれるかは分かっていません。令和9年度概算要求の歯科電子カルテの補助案は、導入等にかかる経費の一部、データ移行費用の一部、パッケージ版の導入等にかかる経費の一部を支援する内容となっています。端末やタブレットを対象に含むかの記述はありません。機器の購入・設置経費の支援が明記されているのは、電子カルテ未導入の医科診療所向けに国がアプリを提供する標準型電子カルテ・導入版です。8

電子処方箋の歯科向けガイドは、その導入補助とは別に、デジタル化・AI導入補助金が使える場合があるため、利用するシステムの事業者に問い合わせるよう案内しています。9デジタル化・AI導入補助金のうち、単独の医院が使える枠でPC・タブレットが対象になるのは、インボイス枠のインボイス対応類型だけです。対象は会計・受発注・決済ソフトの使用に資する機器で、補助額は10万円まで、補助率は1/2以内です。10電子カルテ用の端末がこれに当たるかは、この資料から読み取れません。補助を当てにして端末を買う前に、システム事業者へ問い合わせるとよいでしょう。

6. 紙の置き場に困っている医院と困っていない医院で、移行の利点はどう違うのか

紙カルテの置き場に困っている医院ほど、ペーパーレス化の利点は大きくなります。

紙カルテを置くスペースがすでに限界に達している医院であれば、電子化によって置き場の悩みとカルテを探し出す手間の両方を減らせます。一方で、保管場所も管理方法もすでに確立していて不都合を感じていない医院では、移行によって減らせる業務が少なく、得られる利点も限られてしまいます。

厚生労働省の報告書が示している分析も、これと同じ方向性です。医科では、カルテの保管スペースや管理にかかる負担から電子保存の必要性が高まった経緯があり、歯科でも紙保管の解消が電子カルテを普及させる重要な動機になり得ると報告書は分析しています。1一方で、診療報酬の請求に用いるレセプトコンピュータ(レセコン)のカルテ作成機能を使っている医院では、あえて電子カルテへ移行する利点を感じにくいと想定されています。1レセコンと比較した電子カルテ特有の利点として報告書に挙げられているのは、カルテ原本を紙で保管する必要がなくなる点です。1

7. 自院の利点は何を確かめれば見積もれるか

自院の利点は、次の3つを確かめると見積もれます。

  • 紙の置き場の困り具合: 置き場がいっぱいか、紙を探す・出す手間が毎日の負担になっているか
  • 電子にする紙の範囲: 診療録、診療補助記録、問診票のうち、どこまで一緒に電子にするか
  • 端末と取り込みの量: その範囲に要る端末の台数と金額、通院中の患者さんの紙を取り込む時間

紙の置き場にそれほど困っておらず、必要な端末台数が多く、通院中の患者さんの紙を取り込む量も多い医院では、移行による利点を実感しにくくなります。反対に、保管場所がすでに不足しており、診療録に加えて診療補助記録や問診票まで一括して電子化できる医院であれば、得られる利点は大きいのです。

電子カルテによって紙と日々の手間を減らすには、診療録に加えて診療補助記録や問診票も同時に電子化していくとよいでしょう。院長や管理者が見積りを取る前にこの3つを確かめれば、電子カルテの利点がかかる費用と手間に見合うかを、自院の数字で判断できます。

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参考文献

  1. 厚生労働省(受託者:株式会社NTTデータ経営研究所)「歯科情報の利活用推進事業(歯科診療情報による身元確認のためのデータベースに関する検証等)に係る調査・検証事業等一式 報告書」(2026年3月)
  2. 厚生労働省 和歌山労働局「時間外、休日及び深夜の割増賃金(第37条)」
  3. Apple Japan「iPadを購入」(2026年10月1日確認)
  4. Apple Japan「iPadアクセサリ」(2026年10月1日確認)
  5. 厚生労働省「第35回健康・医療・介護情報利活用検討会 医療等情報利活用ワーキンググループ 資料2 歯科における医療DXについて」(2026年9月10日)
  6. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」掲載の「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第69号)」歯科点数表(2026年3月5日告示、6月1日適用)
  7. 厚生労働省「第10回電子処方箋等検討ワーキンググループ 資料1」(2026年7月1日)
  8. 厚生労働省「令和9年度概算要求 医療DXの推進」(2026年8月28日)
  9. 厚生労働省「院内処方にも対応!歯科のための電子処方箋導入ガイド(第1.0版)」(2026年7月)
  10. 中小企業庁「中小企業デジタル化・AI導入支援事業『デジタル化・AI導入補助金2026』概要」(2026年4月)


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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