『令和8年版 厚生労働白書』から読み解く、歯科医療・口腔保健の現在地と未来像
人口減少と高齢化が進む中、歯科医療では、歯の治療と予防に加え、「食べる機能」を生涯にわたって支える役割が一層重視されます。 『令和8年版 厚生労働白書』から、人材、医科歯科連携、診療報酬、デジタル化の動きを読み解きます。1

目次
1. 歯科診療所は医療施設の3分の1以上。数の先にある地域の課題
全国に多くの歯科診療所があっても、地域で受診しやすいかどうかは別に確かめる必要があります。
白書によると、2024年の全国の医療施設は179,645施設です。そのうち、歯科診療所は66,378施設で、全体の36.9%を占めています。1
| 医療施設の種類 | 施設数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 病院 | 8,060 | 4.5% |
| 一般診療所 | 105,207 | 58.6% |
| 歯科診療所 | 66,378 | 36.9% |
| 合計 | 179,645 | — |
こうした医療を支える、医療施設で働く歯科医師は、2024年に100,266人でした。この数字は病院・診療所に従事する人数を示し、歯科医師の総数とは集計範囲が異なります。1

厚生労働省が2026年7月に公表した報告書では、歯科医師の地域差を分析しています。2
報告書では、地域の人口構成や歯科医師の働き方などを考慮する「診療所歯科医師偏在指標」を用いています。さらに、診療所までのアクセスや歯科医師の高齢化も検討しています。身近な歯科医療を維持するには、全国の総数に加えて、地域ごとの実情を見ることが大切です。2
2. 人材育成と医科歯科連携――必要な医療を届けるために
入院中から地域での療養まで、口の状態を継続して支えることが医科歯科連携の課題です。
地域の歯科医療を支えるには、人材の育成と、病院・診療所の役割分担の両方が必要です。
白書は、第8次医療計画の作成指針に、地域の歯科医療従事者の配置状況を把握することや、病院の機能に応じた活用、病院と地域の歯科診療所との連携を盛り込んだと説明しています。1
2026年度の診療報酬改定でも、入院患者の口腔管理と、リハビリテーション・栄養管理との連携が重視されました。歯科を標榜していない病院の依頼で、入院患者に歯科訪問診療を行う場合の評価も新設されています。3
将来の担い手を育てる教育面では、歯学生が診療に参加する臨床実習に進む前に受ける共用試験が、2024年度から公的な制度になりました。知識を確認するコンピューター試験(CBT)と、実技試験(OSCE)を通じて、実習前の能力を確認します。共用試験そのものは以前から行われており、2024年度の変更は、2021年の歯科医師法改正を受けた制度化です。4
3. 診療報酬は、口腔機能の管理と働く人の処遇をどう支えるか
歯の本数に加えて、かむ力や舌の働きなどを評価し、口の機能を継続して管理する方向が示されています。
診療報酬は、保険診療で行う検査や治療などを評価する仕組みです。2026年度の改定では、歯科医療を担う人の処遇と、継続的な口腔機能の管理が見直されました。3
賃上げに関しては、医療従事者の賃上げを支える歯科の「ベースアップ評価料」の見直しに加えて、「歯科技工所ベースアップ支援料」が新設されました。これは、歯科医療機関が、製作を委託する歯科技工所の歯科技工士の賃上げを支えるための評価です。受け取った支援料を全て委託費の増額に充てるなどの条件が設けられています。3
患者の口の機能については、小児口腔機能管理料と口腔機能管理料の評価・要件を見直し、対象となる患者の範囲を広げています。3
口腔機能管理料では、患者の評価に基づいて管理計画を作り、機能の回復や維持に取り組みます。小児についても、口の機能の発達を支える管理が対象です。3
こうした改定は、医療機関や歯科技工所の取り組みを後押しする制度です。患者への適用は、それぞれの検査・管理の要件に沿って判断されます。
4. 歯科のデジタル化――型取りから入れ歯の製作まで
デジタル技術を治療に生かすには、患者の口の状態に合う方法を選び、診療と技工の工程をつなぐことが必要です。
歯科のデジタル化は、予約や受付の効率化だけでなく、治療や歯科技工にも広がっています。
2026年度の診療報酬改定では、口の中をスキャンして形状を記録する「光学印象」の対象を、CAD/CAM冠にも広げました。CAD/CAM冠は、コンピューターを使って設計・製作する被せ物です。また、「3次元プリント有床義歯」の評価も新設されています。3
デジタル化で変わるのは、情報の扱い方です。口の形をデータとして記録し、設計・製作の工程で利用できるため、歯科医療機関と歯科技工所の連携にも関わります。改定資料は、効率的・効果的な歯科医療の提供や、歯科関係職種の負担軽減を推進する方針を示しています。3
保険診療で評価される被せ物や入れ歯には、対象や条件が設けられています。スキャンや3次元プリントを使う全ての治療が同じ扱いになるわけではありません。3
機器の導入とあわせて、操作する人材の育成や、データを使った連携を整えることが、今後の歯科医療の課題となります。

5. 生涯の口腔保健と、歯科の抗菌薬の適正使用
歯を残すことと、口の機能を保つことを、年齢や生活の変化に合わせて支える必要があります。
歯科口腔保健の基本となるのは、人生の各段階で歯と口の健康を支えることです。
白書は、2011年に制定された歯科口腔保健の推進に関する法律と、2023年10月に告示された「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項(第二次)」を取り上げています。この基本的事項は「歯・口腔の健康づくりプラン」と呼ばれ、生涯を通じた取り組みを進めるための方針です。1
1989年から続く8020運動は、80歳で20本以上の自分の歯を保つことを目指します。毎年6月4〜10日の「歯と口の健康週間」も、歯科口腔保健を広く伝える機会です。1
白書でも、口腔機能の獲得・維持・向上や、歯科疾患の予防を重視しています。1
治療が必要になったときの薬の使い方にも、指針の整備が進んでいます。2026年1月に発行された「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」には、歯科編が加わりました。5
歯や歯周組織などに由来する感染症では、原因となる部位への処置が治療の基本です。手引きは、歯の根の先に生じる炎症などで、局所の処置が可能で全身症状を伴わない場合には、経口抗菌薬を必要としないとしています。抗菌薬を使うかどうかは、感染の状態や全身症状、必要な処置などに基づいて判断されます。5
6. 食べる機能を支える技工の継承――国際大会の歯科補綴
歯科医療の未来を支えるのは、診療の技術と、補綴物を製作する技能の両方です。
患者の食べる機能を支えるには、被せ物や入れ歯を作る技術も欠かせません。歯科補綴(しかほてつ)は、失った歯などを人工物で補う分野です。
2026年9月22〜27日に中国・上海で開催された第48回技能五輪国際大会では、64の技能競技が行われました。「Dental Prosthetics(歯科補綴)」は、この大会で初めて登場した7職種の一つです。6,7
型取りや製作のデジタル化とあわせて、補綴物を作る人の育成も問われます。国際大会で歯科補綴が競われることも、次世代へ技能をつなぐ機会として捉えられます。
これからの歯科医療は、地域で「食べる」を支える
歯科医療の未来像は、歯を治し、予防し、その人が食べる機能を地域で支え続けることです。
白書と関連施策から見えるのは、歯科医療の役割を生涯の口腔機能へ広げ、その役割を地域で果たすための体制を整える方向です。人材の配置と育成、医科歯科連携、診療報酬、デジタル技術は、その実現を支える手段となります。
制度の整備を、通院・入院・在宅療養のそれぞれで必要な歯科医療につなげていくことが、これからの課題です。
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参考文献
- 厚生労働省.令和8年版 厚生労働白書.2026.第1部第1章、第2部第6章・第7章
- 厚生労働省.歯科医師の適切な配置等に関するワーキンググループ報告書.2026年7月14日
- 厚生労働省.令和8年度診療報酬改定説明資料等について.2026.「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」
- 厚生労働省.共用試験(歯学)について
- 厚生労働省.抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編.2026年1月16日
- WorldSkills.WorldSkills Shanghai 2026.2026
- WorldSkills.WorldSkills Shanghai 2026 begins.2026年9月23日
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。
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