若者の声から見える「通いやすい歯医者さん」とは?——思春期の歯科受診体験と歯科不安
目次
- はじめに
- ノルウェーの若者が語る「通いやすい歯医者さん」の条件
- 思春期の口腔ケアと保健指導への本音
- 動画から見える子ども・思春期の歯科恐怖
- 行動変容理論に基づく口腔衛生指導を受けた中高生の経験
- 歯科不安は受診行動にどう影響するのか
- まとめ:若者が「また行きたい」と思える歯科医療に向けて
1. はじめに
思春期は、見た目や人からの印象をとくに気にしやすい時期であり、歯並びや口臭、歯の色など「口もと」への意識も高まります。
一方で、歯科治療に対する恐怖や不安が強いと、「痛くなるまで行かない」「できるだけ歯医者には行きたくない」といった行動につながり、長期的な口腔健康に大きな影響を及ぼします。
近年、ノルウェーやスウェーデン、インドなどで行われた研究から、思春期の若者がどのように歯科受診や口腔ケアを捉えているのか、そして歯科不安が受診行動にどう影響しているのかが、少しずつ明らかになってきました。
この記事では、そうした研究をもとに、若者の「生の声」を手がかりに「通いやすい歯医者さん」とは何かを考えていきます。
2. ノルウェーの若者が語る「通いやすい歯医者さん」の条件
2.1 「ちょっとゆるくて、ちょっとふざけられる」雰囲気
ノルウェーで行われた質的研究では、13〜19歳の若者が自分たちの歯科受診体験について詳しく語っています。
彼らが「理想的」と感じるのは、必要以上にかしこまった雰囲気ではなく、「少しゆるくて、少しふざけられる」ような、リラックスできる診療環境でした。
具体的には、
- 無表情で事務的に進む治療ではなく、世間話や冗談を交えた関わり
- 白衣一色の“いかにも病院”という雰囲気よりも、色付きの服や音楽などがある柔らかい空気
- 怒鳴る・責めるのではなく、落ち着いて待ってくれるスタッフ
といった要素が、恐怖心を和らげ、「ここならまた来てもいい」と思える体験につながることが示されています。
2.2 丁寧な説明と、本人に向き合うコミュニケーション
同じ研究では、「何をされるのか分からない」ことが不安を増幅させるという声も多く挙がっていました。
若者は、「今から何をするのか」「なぜ必要なのか」「どのくらい痛みがあり得るのか」を、専門用語ではなく自分たちにも分かる言葉で説明してほしいと望んでいます。
さらに、
- 親ではなく、自分本人に向けて説明してほしい
- 痛みについて「痛くない」とごまかすのではなく、正直に伝えてほしい
- できている点もきちんと褒めてほしい(悪いところだけ指摘しないでほしい)
といった要望が多く、「対等に扱われている」「尊重されている」と感じられることが、安心感や信頼感につながると考えられます。
3. 思春期の口腔ケアと保健指導への本音
3.1 「気持ちいい」から「どうでもいい」まで幅広い本音
別のノルウェーの質的研究では、12〜20歳の若者80人の口腔ケアへの思いが、5つのテーマに整理されています。
その中のひとつが「気持ちいいと感じる人から、どうでもいいと感じる人まで、非常に幅広い態度がある」という点です。
- 「歯を磨くとスッキリするから、自然とやっている」
- 「家を出る前に歯を磨かないと落ち着かない」
といった前向きな声がある一方で、
- 「どうせ虫歯になる体質だから、頑張っても無駄だと思っている」
- 「大人の言うことは何を聞いても同じに聞こえてしまい、やる気が出ない」
といった諦めや無関心に近い声も見られました。
つまり、「正しい知識を伝える」だけでは不十分で、個々の感情や背景に合わせたアプローチが必要であることが示されています。
3.2 家族・友人・学校が「味方」になるとき
同じ研究では、日常生活の中で若者を支える存在として、家族や友人、学校などの役割も強調されています。
- 親の「うるさいくらいの声かけ」が、結果として良い習慣につながること
- 親自身の歯のトラブル経験が「自分には同じ思いをさせたくない」というメッセージとして伝わること
- 友人同士で歯磨きや歯並びのことを話題にすることで、ケアの意識が高まること
などが若者の口腔ケアを支える要素として挙げられています。
一方で、家庭環境や親子関係が複雑な場合には、親からの声かけが逆効果になることもあり、「家族だけに頼らない支え方」が必要であることも示唆されています。
そこで、歯科医療者が学校などの場に出向き、わかりやすく説明したり質疑応答を行ったりすることが、若者にとって心強いサポートになりうるとされています。
3.3 若者が望む口腔保健指導とリマインダー
若者たちは、口腔保健指導や情報提供のあり方についても具体的な希望を述べています。
たとえば、
- カラフルで親しみやすいデザインや、ほどよいユーモアを交えた教材
- スマホアプリによる歯みがき通知や、通院予定のリマインダー
- 動画や写真を使った「具体的なやり方」の視覚的な説明
などが「続けやすい工夫」として好まれています。
また、「あれもダメ、これもダメ」と脅すような伝え方よりも、
- 良くなっている点を認めてくれる
- 自分で選べる余地がある
- 自分の生活に合わせて一緒に工夫してくれる
といった、前向きで協働的なコミュニケーションが好ましいとされています。
4. 動画から見える子ども・思春期の歯科恐怖
4.1 YouTubeに映し出された「怖い歯医者」のリアル
YouTubeに投稿された歯科関連動画を分析した研究では、子どもや思春期の若者が歯科治療に対してどのように恐怖や不安を表現しているかが詳しく調べられました。
動画の中には、泣き叫ぶ、暴れる、診療台から逃げ出そうとするなど、強い恐怖反応を示す様子が多く見られます。
さらに、
- 「何をされるのか分からない」
- 「音やにおいが怖い」
- 「以前痛い思いをした記憶がよみがえる」
といった不安が、本人や周囲の言葉として語られている例も多く報告されています。
こうした動画は、単なる「面白い映像」ではなく、歯科恐怖がどのような場面で、どの程度強く出るのかを知る重要な手がかりになっています。
4.2 家族や周囲の影響も歯科恐怖を形づくる
動画研究からは、本人だけでなく保護者や兄弟の反応が、歯科恐怖の形成に大きく関わることも示されています。
- 親自身が「歯医者は怖い」と繰り返し口にしている
- 過去のつらい治療体験を、子どもの前で何度も語る
- 子どもが怖がっている時に、責めたり笑ったりしてしまう
といった関わりは、恐怖を強めてしまう可能性があります。
反対に、
- 子どもの気持ちを受け止めつつ、ゆっくり説明してくれる
- 小さな頑張りでも「よくできたね」と認める
- 治療後にごほうび(小さなおもちゃなど)を一緒に喜ぶ
といった関わりは、恐怖を和らげ「次もなんとか行ってみよう」という前向きな気持ちを支えると考えられます。ただし、頑張ったご褒美にアイスやお菓子を与えるのは絶対にやめましょう。
5. 行動変容理論に基づく口腔衛生指導を受けた中高生の経験
5.1 「自分で決めた目標」の力
スウェーデンで行われた質的研究では、行動変容理論に基づくパーソンセンタードな口腔衛生介入を受けた思春期の若者が、どのような体験をしたのかがインタビューで分析されています。
このプログラムでは、「1日何回みがくか」「どのタイミングでみがくか」といった目標を、歯科衛生士と一緒に相談しながら自分で決めていきます。
若者たちは、
- 「言われた通りにやる」のではなく、「自分で決めたからやってみよう」と思えた
- 定期的な振り返りで、自分の変化を実感できた
- 歯科衛生士が責めるのではなく、一緒に考えてくれるのが心強かった
といった前向きな感想を述べています。
これは、思春期における「自立したい気持ち」と「まだ支えが必要な現実」の両方に寄り添うアプローチと言えます。
5.2 良い習慣を続けるために必要な支援
同じ研究では、多くの若者が「介入が終わった後に、良い習慣を長く続けることの難しさ」も語っています。
- 学校や部活で生活が不規則になる
- モチベーションが落ちる時期がある
- 家族や周囲の理解が十分でない
といった理由から、行動が元に戻ってしまうことも少なくありません。
そのため、
- スマホの通知や、洗面所に貼るメモなどのリマインダー
- 定期的なフォローアップや短い面談
- 本人の負担になりにくい「小さなステップ」の目標設定
など、現実的に続けられる支えがあることが、長期的な行動変容には重要だと考えられています。
6. 歯科不安は受診行動にどう影響するのか
6.1 思春期の歯科不安の広がり
インドの都市部の13〜18歳を対象とした横断研究では、標準化された歯科不安尺度を用いて、若者の歯科不安と受診行動の関係が調べられました。
その結果、かなり高いレベルの歯科不安を抱える若者が全体の中で無視できない割合を占めており、「歯医者が怖い」という感情が決して少数派ではないことが示されています。
このような歯科不安は、国や文化を問わず一定程度存在すると考えられ、先に紹介したノルウェーやスウェーデンの研究結果とも大きく矛盾しません。
つまり、「若者の歯科不安」は特定の地域だけの問題ではなく、広く考えるべき課題と言えます。
6.2 「痛くなってから行く」スタイルと不安の悪循環
同じ横断研究では、歯科不安が高い若者ほど、
- 定期検診にはあまり行かない
- 痛みや腫れなど、症状が出たときだけ受診する
- 「怖いから行きたくない」と受診を先延ばしにする
といった受診行動をとりやすいことが分かりました。
このような「痛くなってから行く」スタイルは、
- 虫歯や歯周病が進行してから治療を受けることになり、処置が大掛かりになりやすい
- 治療が大変になるほど、「やっぱり歯医者は怖い」という印象が強化されやすい
という悪循環を生みます。
逆に言えば、
- 不安に配慮した診療環境
- 若者の声を取り入れた説明やコミュニケーション
- 早期からの予防的な受診習慣づけ
によって、この悪循環を断ち切ることができれば、「行くたびに少しずつ慣れてくる」「大きな治療をしなくて済むから怖くなりにくい」という好循環につなげられる可能性があります。
7. まとめ:若者が「また行きたい」と思える歯科医療に向けて
ここまで紹介した研究からは、思春期の若者の歯科受診体験や口腔ケア、不安と受診行動の関係について、共通するいくつかのポイントが見えてきます。
- 歯科医院の雰囲気は「清潔さ」だけでなく、「少しゆるく、話しかけやすい空気」が安心感につながる
- 若者本人を尊重し、専門用語を避けた丁寧な説明や、良い点も認めてくれるコミュニケーションが、信頼関係の土台になる
- 家族や友人、学校などの身近な人たちが「一緒に取り組む仲間」になることで、毎日の口腔ケアが続けやすくなる
- 行動変容理論に基づく支援は、「自分で決める」感覚を大事にしつつ、現実的に続けられる仕組みづくりが鍵になる
- 歯科不安は「痛みが出るまで受診しない」行動につながりやすく、結果としてよりつらい治療を招き、不安を強める悪循環が起こりうる
若者が「また行ってもいいかな」と思える歯科医療の実現には、治療技術だけでなく、環境づくりやコミュニケーション、家族・学校・地域を含めた支援の在り方を見直すことが欠かせません。
この視点は、日々診療にあたる歯科医療者だけでなく、保護者や教育関係者にとっても、思春期世代と向き合ううえで大切なヒントになるでしょう。
参考文献
- “A bit chill, a bit silly” a qualitative study on adolescents’ views of dental clinical encounters in Norway (2025)
「少しゆるくて少しふざけられる」ノルウェーの思春期における歯科受診体験に関する質的研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12538737/ - Adolescents’ views on oral health care and promotion in Norway: everyday practices, recommendations, and future visions (2024)
ノルウェーの思春期における口腔ケアと口腔保健啓発に対する見方:日常実践・推奨・将来像
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11035721/ - Dental Fear and Anxiety in Children and Adolescents: Qualitative Study Using YouTube (2013)
子どもと思春期の歯科恐怖・不安:YouTubeを用いた質的研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3636260/ - Adolescents’ experiences of a theory‐based behavioural intervention for improved oral hygiene: A qualitative interview study (2022)
口腔衛生改善のための理論に基づく行動介入を受けた思春期の体験:質的インタビュー研究
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/idh.12606 - Dental Anxiety and its Impact on Oral Health-Seeking Behavior in Adolescents (2025)
思春期の歯科不安と口腔保健受診行動への影響
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12788439/
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