肝臓が悪いと歯周病は悪化し、歯周病が悪化すると肝臓は悪くなる。お口の環境と肝臓の関係
肝臓が悪くなると、免疫力やお口の環境が変化するため、歯周病が「起こりやすく・悪化しやすくなる」可能性があります。
さらに近年は、「歯周病が肝臓病を悪化させる」という双方向の関係も注目されています。
目次
- はじめに:肝臓と歯周病に本当に関係はあるのか
- 歯周病ってどんな病気?
- 肝臓の働きと代表的な肝臓病
- 肝臓が悪くなると歯周病に影響する仕組み
- 歯周病が肝臓病を悪化させる「お口‐肝臓軸」
- 脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎と歯周病の関係(人での研究)
- 歯周病菌 P. gingivalis と非アルコール性脂肪肝炎(動物・基礎研究)
- 肝臓病がある方の歯科受診のポイント
- 日常生活でできる予防とセルフケア
- おわりに:肝臓と歯ぐきを同時に守る
1. はじめに:肝臓と歯周病に本当に関係はあるのか
近年、歯周病が糖尿病や心臓病だけでなく、肝臓の病気とも関係している可能性が、多くの研究や総説で示されてきました。
とくに、生活習慣病として増えている「脂肪肝」や、その進行型である「非アルコール性脂肪肝炎」と歯周病との関係は、「口腔‐肝臓軸(お口と肝臓がつながっている)」という新しい概念として注目されています。
現時点のエビデンスをまとめると、
- 肝臓の病気があると歯周病が悪化しやすくなる
- 歯周病があると脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎が進行しやすくなる
という双方向の関係が示唆されています。
2. 歯周病ってどんな病気?
歯周病は、歯を支えている歯ぐきや骨(歯周組織)に起こる慢性的な炎症性の病気で、主な原因は歯の周りにつく「プラーク」という細菌の塊です。
進行すると、歯ぐきの腫れや出血だけでなく、歯を支える骨が少しずつ溶けていき、最終的には歯がぐらついたり抜けたりしてしまいます。
歯周病は痛みなどの自覚症状が少ないまま進むことが多く、「静かに進行する病気」と言われます。
さらに、歯周ポケットの中の細菌や炎症物質が血液に入り込むことで、全身の炎症や代謝のバランスに影響し、生活習慣病を悪化させる可能性も指摘されています。
3. 肝臓の働きと代表的な肝臓病
肝臓は「体の化学工場」とも呼ばれ、次のような重要な働きをしています。
- 食べ物から摂った糖・脂質・たんぱく質を処理し、必要に応じて貯蔵する
- アルコールや薬、アンモニアなどの有害物質を解毒する
- 血液中のたんぱく質(アルブミンや凝固因子など)を合成する
- 免疫の調節にも関わる
代表的な慢性肝臓病には、
- 脂肪肝
- 非アルコール性脂肪肝炎
- B型・C型などのウイルス性肝炎
- アルコール性肝障害
- 肝硬変
などがあります。
脂肪肝は、飲酒量が多くないにもかかわらず肝臓に脂肪がたまりすぎる状態で、その一部が炎症と線維化を伴う「非アルコール性脂肪肝炎」に進行し、さらに肝硬変や肝がんに進むことがあります。
こうした肝臓病では、全身の炎症や免疫の異常、出血しやすさ、栄養不良などが起こり、口の中にも影響を及ぼすと考えられています。
4. 肝臓が悪くなると歯周病に影響する仕組み
4-1. 免疫力の低下
慢性の肝臓病では、免疫の働きがうまくいかなくなり、感染症にかかりやすくなります。
その結果、口の中でも歯周病の原因となる細菌への抵抗力が弱まり、歯周病が起こりやすく、悪化しやすくなると考えられています。
4-2. 出血しやすくなり歯みがきが不十分になる
肝硬変など肝臓の機能がかなり低下した状態では、血液を固める成分が十分につくられず、出血しやすくなります。
歯ぐきから血が出やすいと、多くの方が怖くて歯みがきを控えてしまい、その結果としてプラークがたまり、歯周病がさらに悪化する悪循環に陥りがちです。
4-3. 栄養状態の悪化と治りにくさ
慢性肝臓病では、食欲低下や代謝異常により、栄養状態が悪くなりやすくなります。
栄養状態が悪いと、歯ぐきや歯を支える骨の修復力が落ち、いったん起こった炎症がなかなか治らず、慢性化・重症化しやすくなります。
5. 歯周病が肝臓病を悪化させる「お口‐肝臓軸」
最近の研究では、逆に「歯周病が肝臓の病気を悪化させる」ことも大きなテーマになっています。
歯周病が全身の炎症や腸内環境の変化、菌血症(細菌が血液中に入り込む状態)を通して肝臓に悪影響を与える仕組みは、「お口‐腸‐肝臓軸」として説明されます。
歯周病の炎症部位からは、歯周病原細菌やその毒素(LPS)、炎症性の物質が血液に入り、肝臓に届いて炎症や線維化(硬くなる変化)を進めると考えられています。
さらに、歯周病菌が唾液と一緒に飲み込まれて腸に達し、腸内細菌のバランスを乱したり、腸のバリア機能を弱めたりすることで、肝臓への負担を高める可能性も示されています。
6. 脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎と歯周病の関係(人での研究)
6-1. 観察研究・まとめられた結果
脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎と歯周病の関係を調べた人での研究は、世界中で増えています。
複数の研究をまとめた総説では、脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎のある人では、そうでない人に比べて歯周病の割合が高いことが報告されています。
また、歯周病が重いほど脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎、さらには重い肝臓のトラブル(肝硬変や肝がんなど)のリスクが高くなる、という傾向も示されています。
ただし、こうした研究は「関係がありそうだ」ということを示したもので、「歯周病が必ず脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎を起こす」とまでは言い切れません。
7. 歯周病菌 P. gingivalis と非アルコール性脂肪肝炎(動物・基礎研究)
7-1. 動物実験でわかったこと
ラットやマウスを使った実験では、脂肪肝のモデル動物に歯周炎を起こさせ、歯周病菌である Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)を感染させることで、非アルコール性脂肪肝炎の進行が悪化することが示されています。
このような実験では、歯周炎がある群で、歯槽骨の吸収や歯周炎の悪化だけでなく、肝臓の炎症・線維化や血中のエンドトキシンの増加も確認されています。
7-2. 線維化・肝がんへの進展との関連
マウスの非アルコール性脂肪肝炎モデルを用いた研究では、歯から P. gingivalis を感染させると、肝臓内にこの細菌が存在することが確認され、線維化や肝臓の炎症を示す指標が悪化しました。
さらに、非アルコール性脂肪肝炎から肝がんに進んでいく過程でも、この歯周病菌の関与が疑われる結果が報告されており、歯周病菌が肝がん発生のリスク要因になりうる可能性も指摘されています。
これらの基礎研究から、「歯ぐきの炎症とそこにいる細菌が、実際に肝臓に届き、非アルコール性脂肪肝炎や肝がんの進行に関わるかもしれない」というメカニズムが徐々に明らかになってきています。
8. 肝臓病がある方の歯科受診のポイント
慢性の肝臓病を持つ方が歯周治療や歯科治療を受ける際は、次のような点が重要になります。
- 出血しやすさの確認
血小板の数や血液を固める力を事前に確認し、抜歯など出血を伴う処置のリスクを評価します。 - 使用する薬への配慮
一部の薬は肝臓で代謝されるため、量や種類を調整したり、必要に応じて主治医と相談したりすることが大切です。 - 感染予防と口腔衛生指導
免疫力が低下している場合もあるため、感染を防ぐための口腔ケアを丁寧に行う必要があります。 - 定期的なフォロー
一度きりではなく、定期的に歯周検査とクリーニングを行い、慢性的な炎症を抑えることが重要です。
肝臓が悪いからといって歯周治療を控えるのではなく、安全面に配慮しながら、むしろ積極的に口の中の炎症を減らしていくことが勧められています。
9. 日常生活でできる予防とセルフケア
お口と肝臓の両方を守るには、生活習慣と歯周病対策をセットで行うことがポイントです。
歯周病対策
- 歯ブラシに加えて、歯間ブラシやデンタルフロスを使い、歯と歯ぐきの境目を毎日ていねいに清掃する
- 3〜6か月ごとに歯科医院で歯周検査と専門的なクリーニングを受ける
肝臓を守る生活習慣
- 体重管理や適度な運動、バランスの良い食事で脂肪肝のリスクを下げる
- 過度の飲酒を避ける
- 喫煙している場合は禁煙を検討する(たばこは歯周病と肝臓病の両方を悪化させる要因です)
これらは、歯周病の予防だけでなく、脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎を含む生活習慣病全体のリスク低減にもつながります。
10. おわりに:肝臓と歯ぐきを同時に守る
現在までの研究から、肝臓の病気と歯周病の間には明らかな関連があり、とくに脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎との関係を示すデータが集まりつつあります。
動物実験などでは、歯周病菌が肝臓の線維化や肝がんの進展に関与する可能性も示されており、「歯ぐきの炎症が肝臓に悪影響を及ぼしうる」という考え方は、十分に現実味を帯びてきています。
一方で、人での大規模な介入研究(歯周治療によって肝臓病がどこまで改善するか)については、まだ十分な数がそろっているとは言えません。
それでも、「肝臓に不安がある人ほど、歯周病を放置しない」という姿勢は、全身の健康を守るうえで理にかなった選択と言えるでしょう。
参考文献
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非アルコール性脂肪性肝疾患と歯周病:システマティックレビューとメタアナリシス
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https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/prd.12427 - Porphyromonas gingivalis induced periodontitis exacerbates progression of non-alcoholic steatohepatitis in rats (2016)
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Porphyromonas gingivalis 歯性感染は肝星細胞活性化を介してNASHの線維化を増悪させる
https://www.nature.com/articles/s41598-020-60904-8 - Porphyromonas gingivalis-odontogenic infection is the potential risk for progression of nonalcoholic steatohepatitis-related neoplastic nodule formation (2023)
Porphyromonas gingivalis 歯性感染はNASH関連肝腫瘍結節形成進展の潜在的リスクとなりうる
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10250332/ - Hepatitis and periodontal health: an emerging oral-liver axis (2025)
肝炎と歯周健康:新たな「口腔–肝臓軸」
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20406223251368090
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