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矯正歯科を考えているあなたへ――知っておきたいイメージと現実のギャップ

矯正歯科治療に関心を持つ人は年々増えています。しかし「興味はあるけれど、費用や期間のことがよくわからない」「どの医院を選べばいいか迷っている」という声も多く聞かれます。
公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会(JPAO)が2020年2025年に実施した2つの大規模な意識調査、さらに2025年調査に付属する5つのグラフデータからは、多くの人が抱く”矯正歯科のイメージ”と”治療の現実”の間に、無視できないギャップがあることが浮き彫りになりました。
本記事では、グラフの数値を含めて詳しく読み解きながら、後悔しない治療選択のために知っておきたいポイントを整理します。

目次

  1. 矯正歯科への関心、若い世代ほど高まっている
  2. 治療を考えるきっかけ――世代で違う「動機」とその意味
  3. 情報収集はSNSが主流に――でも注意点がある
  4. 医院選びで何を重視するか――「費用・口コミ優先」の落とし穴
  5. 費用のイメージと現実のギャップ
  6. 期間のイメージと現実のギャップ
  7. 「矯正歯科」と書いてあっても専門医とは限らない
  8. 後悔しない医院選びの3ステップ
  9. まとめ――情報の多い時代だからこそ「選ぶ力」を

1. 矯正歯科への関心、若い世代ほど高まっている

2020年に実施されたアンケート調査(全国20〜69歳・男女1,030人対象)によると、矯正歯科治療を「受けてみたい」と考えている人は全体の約3割。なかでも20代男女では4割以上が治療に興味を持っていました。

2025年の最新調査(全国15〜79歳・矯正を検討中の男女800人対象)でもこの傾向は続いており、若い世代を中心に矯正への関心は確実に高まっています。
背景にあるのは、SNSや動画サービスを通じて「口もとの美しさ」に関する情報が身近になったこと、そして歯並びを自己投資のひとつとして前向きに捉える意識の変化です。

2. 治療を考えるきっかけ――世代で違う「動機」とその意味

2025年の調査グラフ「なぜ矯正歯科治療を検討しているか?」から、世代によって動機の構成が大きく異なることが読み取れます。

若年層はコンプレックス解消が最大の動機

全世代を通じて最も多い動機は「咬み合わせの改善」ですが、10代では「コンプレックス解消(美容目的)」が54.2%と咬み合わせ改善(52.1%)を上回り、全年代で最高値を示しました。20代でも46.2%と高水準です。年齢が上がるにつれてコンプレックス解消への言及は低下し、60代では19.8%、70代では18.2%にとどまります。

見逃せない「まわりがやっているから」という動機

グラフから読み取れる興味深い点は、「まわりがやっているから」という同調動機が10代(6.3%)で全年代の最高値を示していることです。20代(3.5%)、30代(4.1%)と比べても突出しており、友人・知人が矯正を始めたことがきっかけになりやすい10代の特性が現れています。この層では、十分な動機や理解が伴わないまま「なんとなく」始めてしまうリスクも考えられます。

「むし歯・歯周病のリスクを減らしたい」は20代が最高

予防意識の高さという点では、20代が「むし歯や歯周病のリスクを減らしたい」を34.1%と全年代で最も高く選んでいます。30代(18.2%)や40代(21.4%)をも大きく上回ります。美容目的への関心と予防意識の高さが同居しているのが現代の20代の特徴といえます。

一方、コンプレックス解消に注目が集まるほど、医療的な側面への理解が不十分なまま検討が進む可能性もあります。2020年の調査では、咬み合わせが悪いことで顎関節症のリスクが高まると知っていた人は56.8%、虫歯は54.7%、歯周病は44.7%にとどまっており、いずれも十分な認知とはいえません。審美面と機能面の双方を視野に入れて治療を検討することが大切です。

3. 情報収集はSNSが主流に――でも注意点がある

2025年の調査グラフ「矯正歯科治療を検討する際の情報源は?」から、情報収集手段には明確な世代差があることが確認されました。

SNS・YouTubeへの依存は10〜20代で顕著

10代・20代のSNS(X、Instagram)利用率はともに54%台と全年代で最高値を記録しています。30代でも43.8%と高い水準です。一方、40代(28.2%)・50代(22.3%)・60代(18.8%)・70代(17.3%)と年代が上がるにつれSNS依存は急速に低下し、代わりに「知り合いからの情報」が最上位になります(40代 59.8%、50代 66.9%、60代 62.4%)。

特に注目すべきはYouTubeの利用率で、20代では32.9%と全年代で最高を示しています。10代(14.6%)より20代の方が高い点は、長尺コンテンツでより深く情報収集しようとする20代の行動特性を反映しているとも考えられます。

「比較できる時代」に潜むリスク

SNSが持つ特徴の一つに、利用者の関心に近い情報が優先的に表示される「フィルターバブル」と呼ばれる現象があります。「短期間で終わる」「目立たない装置で簡単に治せる」というイメージが知らぬ間に強化され、それが矯正歯科治療の”普通”だと感じるようになるリスクがあります。

また、費用の安さや治療期間の短さといった「わかりやすい指標」は強調されやすい一方、診断力や治療計画の精度といった専門性は外から見えにくいものです。
2020年の調査でも、医院との金銭・契約・治療方針に関するトラブルや悩みを「聞いたり経験したりした」人は全体の約3割。なかでも20代女性では4割弱と最も高く、「安価な広告に惑わされた結果、トラブルになっている」ケースが推測されています。

情報が多い時代だからこそ、「どこでその情報が作られたか」「誰がどんな意図で発信しているか」を意識しながら読み解く姿勢が求められます。

4. 医院選びで何を重視するか――「費用・口コミ優先」の落とし穴

2025年の調査グラフ「情報源から医院選びをする際、注目する点は?」では、医院選択基準の世代差と、若年層特有のパターンが浮き彫りになりました。

10代は「費用の安さ」が最重要視、20代は「口コミ」が最上位

10代では「費用が安価」が58.3%と全年代で最高値を示し、医院選択の第一基準となっています。「口コミ」52.1%がそれに続きます。
20代は「口コミ」53.2%が最上位となり、「費用が安価」47.4%が続きます。「通院に便利な立地条件」41.5%も高く、コンビニエンス志向が色濃く見られます。この傾向は2020年の調査でも同様に確認されており、5年以上経った現在も変わっていないことがわかります。

10代は「実績・資格」も気にする二面性がある

一方、グラフを子細に見ると、10代では「受賞歴や症例件数などの実績」が31.3%、「認定医や専門医などの認定資格を有した歯科医師が在籍しているから」が27.1%と、費用重視と並行して専門性の指標も相応に重視されています。これは20代(受賞歴 30.1%、認定資格 23.9%)をも上回る数字です。
保護者が関与することが多い10代の受診では、「とにかく安く」という側面と「ちゃんとした専門家に任せたい」という側面が混在しているとも読み取れます。

高年代ほど「通院の利便性」を重視

50代(61.5%)・60代(65.3%)・70代(62.7%)では「通院に便利な立地条件」がトップになります。治療期間の長さを見越した現実的な判断がうかがえます。年代が上がるほど費用への感度は下がり、継続性・利便性を優先する傾向が読み取れます。

「特に気にしていない」層に注意

20代では「特に気にしていない」が15.0%と、全年代の中で唯一目立つ値を示しています。他の年代では2〜10%程度に収まる中、20代の1割超が医院選びの基準を特に持っていないという事実は、情報過多の中での「選択疲れ」や、SNSでの口コミに任せきりにしている状況を示唆しているかもしれません。

5. 費用のイメージと現実のギャップ

矯正歯科治療の実際の費用の目安は次のとおりです。

治療方法おおよその費用(調整費込)
マルチブラケット(表側)70〜120万円
裏側矯正100〜180万円
マウスピース矯正90〜120万円

2025年の調査グラフ(Q:総額いくらなら治療しようと思うか?)から、ほぼすべての世代で実際の費用を大きく下回る金額を想定していることが明確にわかります。

世代別の費用感

2025年の調査グラフ「総額いくらなら治療しようと思うか?」で最も特徴的なのは10代で「30万円未満」が37.5%と全年代で最高値を示していることです。「30〜60万円未満」(27.1%)を合わせると、10代の64.6%が「60万円未満」に収まると想定しています。これは実際の最低相場(マルチブラケット表側で70万円程度)を下回ります。

20代では「30万円未満」が30.6%と依然高い一方、「100〜150万円未満」も12.9%と全年代で最高値を示しています。裏側矯正やマウスピース矯正の費用感を持つ層が一定数いることを示し、費用認識の二極化が起きています。

40代以上では「60〜100万円未満」容認率が30%前後と若年層より高く、現実の費用レンジに近い感覚を持ち始めています。特に70代(「60〜100万円未満」23.6%+「100万円以上」4.6%=28.2%)は全世代の中で現実感覚に最も近い層といえます。

なぜギャップが生まれるか

SNS上では「安価なマウスピース矯正」や「部分矯正数万円〜」といった広告が目立ちやすく、それが全顎矯正の相場感覚を歪める一因になっていると考えられます。また10代の場合、保護者が費用の主な担い手になりますが、保護者世代も必ずしも正確な費用情報を持っているとは限りません。初診相談の段階で明確な費用説明を求めることが重要です。

6. 期間のイメージと現実のギャップ

矯正歯科治療の平均的な期間は2〜3年とされています(治療後の保定期間は別途必要)。しかし、2025年の調査グラフ「どれくらいの期間であれば治療しようと思うか?」では、ほぼ全世代にわたって2年未満を望む傾向が確認されました。

特に顕著な10代・20代の「短期間幻想」

10代では「半年〜1年未満」が35.4%と最多で、「半年未満」(10.4%)を合わせると45.8%が1年未満での完了を期待しています。「2年未満」を望む割合は合計79.1%に達します。
20代では「1〜2年未満」が42.8%と最多で、2年未満合計は80.9%です。

30代でも「半年未満」が18.2%と全年代で最高値を示しており、ある程度の現実感を持ちながらも短期完了への期待が強いことがわかります。

年代が上がるほど現実に近づく

一方、40代・50代では「2〜3年未満」の容認率がそれぞれ12.8%・16.9%と上昇し始め、70代では「2〜3年未満」が24.5%・「3年以上」が12.8%と、2年以上の治療を受け入れる姿勢が全年代で最も高くなります。経験の蓄積や現実的な情報接触が、適切な期間感覚につながっている可能性があります。

「保定期間」が抜け落ちている問題

グラフの注記には「※治療後の保定期間を除く」とあります。矯正治療終了後には後戻り防止のための保定装置装着期間(目安1〜3年以上)が必要ですが、この期間に対する認識がどれほど浸透しているかは別途問われるべき課題です。「2年で終わると思ったのに保定が続く」という感覚的なギャップも、患者不満の一因になり得ます。

7. 「矯正歯科」と書いてあっても専門医とは限らない

医院選びで見落としがちなのが、自由標榜制の問題です。
日本では歯科医師免許を持つ医師であれば、専門的な研修や認定資格の有無にかかわらず、「矯正歯科」の看板を掲げることができます(2)。現在、「矯正歯科」を標榜している歯科クリニックは全国に約2万5,000件。しかし矯正歯科専門で診療を行うクリニックは約3,000件程度とされています。

2025年の調査では、全年代の約8割がこの自由標榜制を知らなかったと報告されています(2)。また2020年の調査でも、矯正歯科治療に専門性が高いと認識している人は約8割いる一方、医院選びで最も重視するのは「費用の安さ」と「通院の利便性」という結果でした(1)。専門性を重要と感じながら、いざ選ぶ段階では専門性以外の基準で決めてしまう——このギャップが、トラブルの温床になり得ます。

矯正歯科の分野には、専門的な研修と試験を経て取得できる資格があります。

  • 日本矯正歯科学会の認定医・臨床医(旧臨床指導医)
  • 日本歯科専門医機構が認定する矯正歯科専門医

これらの有資格者は各学会・専門機構の公式サイトで確認することができます。資格の有無だけで医療の質がすべて決まるわけではありませんが、専門的な研鑽を積んできた一つの客観的指標として活用できます。

8. 後悔しない医院選びの3ステップ

日本臨床矯正歯科医会が提示するポイントをもとに、一般の方に向けて整理しました。

ステップ① 医院のホームページを丁寧に確認する

担当医師の経歴・資格・治療方針、費用や期間の説明が丁寧に記載されているか確認しましょう。「簡単に治る」「短期間で完了」「キャンペーン中」など、利便性や安さを強調する表現には注意が必要です。2018年に改正された医療広告ガイドラインにより、医院のウェブサイトも広告と同様の法的規制の対象となっています。

ステップ② 専門資格を確認する

日本矯正歯科学会の認定医や、日本歯科専門医機構の矯正歯科専門医であるかどうかは、それぞれの公式サイトから誰でも検索・確認できます。医院情報だけで判断が難しい場合には、こうした公的情報を参照することが有効です。

ステップ③ 実際に足を運んでみる

矯正歯科治療は2〜3年にわたる長期的なプロセスです。医院の雰囲気・通いやすさ・説明のわかりやすさ・質問への向き合い方なども、継続的な治療を支える重要な要素です。また、「マウスピース矯正しかできない」医院よりも、患者の状態に応じて複数の治療方法を提示し、柔軟に対応できる体制があるかどうかも確認しておきましょう。

また、矯正歯科治療の適切な診断には、頭部X線規格写真(セファログラム)などの精密検査が不可欠です(2)。初診相談の際に「どのような検査を行うか」「検査結果に基づいて治療計画を立てるか」を確認することも、信頼できる医院を見極める重要な手がかりになります。

日本臨床矯正歯科医会の「矯正歯科何でも相談」(公式サイト内) を利用することも一つの方法です。疑問や不安があれば気軽に問い合わせてみてください。

9. まとめ――情報の多い時代だからこそ「選ぶ力」を

5つのグラフが示すデータをまとめると、以下のことが見えてきます。

項目若年層(特に10代・20代)のイメージ実際
治療の動機コンプレックス解消・同調(まわりがやっている)咬み合わせ改善も同等以上に重要
情報源SNS・YouTube中心医療的根拠が希薄な情報も混在
医院選び費用の安さ・口コミ優先専門資格・診断体制が本来は最重要
費用感60万円未満が多数(10代の64.6%)最低70〜90万円台が現実的な相場
治療期間2年未満を8割が希望平均2〜3年+保定期間が必要

2020年と2025年の2つの調査が示していることは一貫しています。矯正歯科治療への関心は高まっているが、費用・期間・医院の専門性について「知っているようで知らない」状態が続いている、ということです。

矯正歯科治療は単に歯をきれいに並べるだけではありません。咬み合わせや咀嚼機能を整え、虫歯・歯周病・顎関節症のリスクを長期的に下げる、医療行為としての意味があります。また、矯正歯科治療後には治療を受けてよかったと思う人が71.5%に達するという結果もあります。

情報があふれる時代だからこそ、目に飛び込んでくるわかりやすい言葉や印象だけで判断するのではなく、その情報の背景まで想像しながら読み解く姿勢が、結果として「後悔しない選択」につながります。

参考文献

  1. 矯正歯科治療に関する意識調査(2020年)
    https://www.jpao.jp/15news/1535awareness-survey
  2. vol.39 若年層が抱く矯正歯科治療のイメージと現実(2026年)
    https://www.jpao.jp/15news/1525trendwatch/vol39

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