お茶は歯に良い?悪い?大規模遺伝データが示した「お茶の飲み方」と歯周病リスクの意外な関係
最終更新日:2026/9/9
「緑茶は歯に良い」「お茶でうがいすると虫歯予防になる」という話を聞いたことがある方は多いかもしれません。緑茶に含まれるカテキンの抗菌・抗炎症作用は、これまでの研究でも一定の評価を受けてきました。
一方で、2024年に Scientific Reports に発表されたメンデルランダム化(Mendelian Randomization, MR)研究は、「遺伝的にお茶をよく飲む人ほど、歯周病リスクがやや高い可能性がある」という、直感に反する結果を報告しました1。
「一体どういうこと?」と思われる方のために、この記事ではその研究の内容と意味を、確かな部分と未確定な部分を分けながらわかりやすく解説します。
目次
- お茶と歯の健康:これまでの常識と疑問
- メンデルランダム化(MR)研究とは?:遺伝子という「くじ引き」で因果を探る
- 今回の研究(2024年)の概要
- 研究結果:お茶摂取量と歯周病・むし歯のリスク
- なぜ「お茶を多く飲む人ほど歯周病リスクが高い」という結果になったのか
- お茶の種類で違う?:緑茶・紅茶・ウーロン茶の比較
- 緑茶カテキン(EGCG)の抗菌・抗炎症効果:別の研究視点
- 「砂糖入りかどうか」が実は最大の問題
- 今日から実践できる「歯に優しいお茶の飲み方」
- まとめ
1. お茶と歯の健康:これまでの常識と疑問
緑茶にはカテキン(特にエピガロカテキンガレート:EGCG)・フッ素・ポリフェノールなどの成分が含まれ、これらが歯周病菌や虫歯菌の増殖を抑える可能性があることは複数の試験管内研究・動物実験で示されてきました2。
一方で、お茶にはタンニン(ポリフェノールの一種)が含まれ、歯の表面に付着して着色(ステイン)の原因になることも知られています。また、お茶に砂糖を加えて飲む習慣のある地域では、むし歯リスクが高いことも報告されています3。
「お茶は歯に良い成分を含むが、飲み方や種類によっては注意も必要」——そういった複雑な関係が従来から指摘されていましたが、「実際のところ、お茶をよく飲む人はそうでない人より歯周病になりやすいのか、なりにくいのか」という問いに、大規模データで答えた研究はほとんどありませんでした。
2. メンデルランダム化(MR)研究とは?:遺伝子という「くじ引き」で因果を探る
「お茶をよく飲む人は健康意識が高く、他の生活習慣も良い傾向がある」というように、食習慣の研究では交絡因子(他の影響要因)が結果を歪めてしまうことが多くあります。
メンデルランダム化(MR)研究は、生まれながらの遺伝子の違いを使って交絡を排除しようとする手法です1。遺伝子は生活習慣で変わらないため、「遺伝的にお茶を多く飲みやすい体質の人」と「遺伝的にお茶をあまり飲まない体質の人」を比較することで、生活習慣の違いに左右されにくい形でお茶と歯周病の関係を調べられます。
わかりやすく言えば、「生まれつきお茶が好きな体質の人と、そうでない人で、歯周病の発症率は違うか?」を遺伝子という「くじ引き」で調べた研究です1。
3. 今回の研究(2024年)の概要
2024年に Scientific Reports に発表されたこのMR研究は、以下のデータを使用しました1。
- お茶摂取の遺伝データ:UKバイオバンク(約45万人のイギリス人)のゲノムワイド関連解析(GWAS)から、お茶の摂取量と関連する遺伝子変異(SNP)を特定
- 歯周病・むし歯の遺伝データ:GLIDEコンソーシアム(歯周病GWAS)、FinnGenデータベース、歯周病の多数の独立データベース
- 解析手法:二標本MR(two-sample MR)、感度分析(MR-Egger法・加重中央値法・加重モード法)
4. 研究結果:お茶摂取量と歯周病・むし歯のリスク
主要な結果(GLIDEデータ)
お茶摂取量の遺伝的傾向が高い人では、歯周炎のオッズ比(OR)が1.622(95% CI: 1.191〜2.209、p = 0.002)と、有意に高いことが示されました1。
| 解析 | オッズ比(OR) | 95% 信頼区間 | p値 |
|---|---|---|---|
| IVW法(主解析) | 1.622 | 1.191〜2.209 | 0.002 |
| MR-Egger法 | 1.561 | 0.769〜3.170 | 0.220 |
| 加重中央値法 | 1.540 | 1.018〜2.330 | 0.041 |
| 加重モード法 | 1.671 | 1.012〜2.758 | 0.046 |
ただし、社会経済的要因(教育年数・世帯収入)で調整した解析では、有意性が弱まる(p = 0.069)ことも報告されています1。また、FinnGenデータベースでの追加解析では有意差は認められませんでした1。
むし歯については、今回の研究では有意な関連は示されませんでした1。
5. なぜ「お茶を多く飲む人ほど歯周病リスクが高い」という結果になったのか
この結果は一見驚きますが、いくつかの重要な理由が考えられます。
①イギリス人のお茶文化——紅茶に砂糖・ミルクを加える習慣
今回の研究はUKバイオバンク(イギリス人)のデータが主体であり、イギリスではお茶といえば砂糖・ミルク入りの紅茶を1日数杯飲む習慣が一般的です3。砂糖入りの飲み物を頻繁に飲むことは歯周病菌の栄養源となり得るほか、口腔内の環境を変化させる可能性があります3。
②社会経済的要因との交絡
社会経済的に低い環境(低学歴・低収入)は、歯科受診の少なさや口腔衛生習慣の不良と関係することが多く、また紅茶に砂糖を多く加える習慣とも関連する傾向があります1。研究者自身が「社会経済的要因がこの関連を媒介している可能性がある」と指摘しています1。
③遺伝子の多面的効果(プレイオトロピー)
お茶摂取に関連する遺伝子が、お茶の飲用以外の経路で歯周病に影響している可能性(プレイオトロピー)も排除できません1。
これらの理由から、「お茶そのものが歯周病を引き起こす」という解釈は過剰であり、誤解を招く可能性があります1。
6. お茶の種類で違う?:緑茶・紅茶・ウーロン茶の比較
お茶は世界中で多様な形で飲まれており、種類によってカテキン・カフェイン・フッ素・pHなどが大きく異なります。
| 種類 | 主なカテキン | フッ素含有量 | pH | 砂糖添加の慣習 |
|---|---|---|---|---|
| 緑茶(日本) | 高(EGCG豊富) | 比較的高 | 弱酸性〜中性 | 少ない(無糖が主流) |
| 紅茶(イギリス) | 低(発酵で減少) | 中程度 | 弱酸性 | 多い(砂糖・ミルク添加) |
| ウーロン茶 | 中程度 | 中程度 | 弱酸性 | やや少ない |
| 甜茶・ハーブティー | 種類による | 低い | 種類による | 種類による |
今回の研究はイギリス人(主に紅茶文化)のデータに基づくため、日本人が日常的に飲む無糖の緑茶に対して、同じ結果がそのまま当てはまるとは言えません1。
7. 緑茶カテキン(EGCG)の抗菌・抗炎症効果:別の研究視点
今回のMR研究とは別に、緑茶カテキン(特にEGCG:エピガロカテキンガレート)の歯周病菌への効果を調べた研究も複数あります。
緑茶カテキンには、歯周病原菌である Porphyromonas gingivalis の増殖を抑制し、歯周病に関係する炎症性サイトカインの産生を低下させる可能性を示唆する研究があります。ただしこれは主に試験管内(in vitro)の研究であり、実際に人間がお茶を飲んだ場合に歯ぐきで同じ効果が得られるかどうかは、まだ十分に証明されていません。
現時点では「緑茶カテキンには試験管内・動物実験レベルで歯周病菌への効果が示されているが、ヒトの歯周病予防・治療への実際の有効性は未確定」と整理するのが正確です2。
8. 「砂糖入りかどうか」が実は最大の問題
お茶と歯の関係でもっとも重要な実践的ポイントは、砂糖を加えるかどうかです。
- 無糖のお茶:カテキン・フッ素・ポリフェノールなどの成分が含まれ、歯周病菌の増殖を抑える可能性がある。着色の原因にはなるが、直接的なむし歯・歯周病リスクとなる根拠は乏しい
- 砂糖入りのお茶:砂糖(スクロース・果糖ぶどう糖液糖など)がむし歯菌の栄養源となり、歯垢(プラーク)の酸産生を促進。頻繁な摂取はむし歯・歯周病のリスクを高める
WHOは「むし歯予防のために、自由糖の摂取を総エネルギーの10%未満に、できれば5%未満に抑えることを推奨」しており、砂糖入り飲料の頻繁な摂取を明確に歯の健康へのリスクとして位置づけています3。
また、タンニンによる歯の着色(ステイン)はお茶の種類に関係なく起こりやすく、審美的な観点では定期的な歯科クリーニング(PMTC)で除去することが推奨されます。
9. 今日から実践できる「歯に優しいお茶の飲み方」
研究結果を踏まえ、歯科医師の立場から実践的なアドバイスを整理します。
- お茶は可能なら無糖で飲む(砂糖・ガムシロップを加えない)
- お茶の後に口をゆすぐ(水でのうがい)と、タンニンによる着色を軽減できる
- 長時間だらだら飲み続けるより、食事のタイミングとまとめて飲む習慣にする
- 緑茶・麦茶・ほうじ茶などはむし歯のリスクとなる糖を含まないが、コーヒーや紅茶の着色汚れが気になる場合は定期クリーニングを活用する
- お茶でのうがい習慣で「歯磨き不要」と考えるのは誤りであり、正しいブラッシングが引き続き最重要
10. まとめ
- 2024年のMR研究では、遺伝的にお茶をよく飲む人(主にイギリス人・紅茶文化)で歯周病リスクがやや高い傾向が示されたが、社会経済的要因で調整すると有意性が弱まるなど、「お茶そのものが歯周病を引き起こす」とは言えない(未確定)1
- この研究結果は主にイギリス人・紅茶(砂糖・ミルク添加)の文化に基づくものであり、日本人の無糖緑茶にそのまま当てはまるとは言えない1
- 緑茶カテキン(EGCG)には歯周病菌への効果が試験管内研究で示されているが、ヒトの歯周病予防・治療への有効性は未確定2
- 砂糖入りのお茶は歯の健康に明確なリスクとなる。無糖で飲むことが最も重要な実践的ポイント3
- タンニンによる着色は種類を問わず起こりやすいため、定期的な歯科クリーニングで対応する
「お茶の着色が気になる」「歯周病の状態を確認したい」「毎日のお口のケアについて相談したい」方は、ぜひ船橋のかわせみデンタルクリニックへお越しください。科学的根拠にもとづいた歯周病予防とセルフケアのアドバイスをいたします。
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参考文献
- Assessing the association between tea intake and risk of dental caries and periodontitis: a two-sample Mendelian randomization study(2024)
お茶摂取量とむし歯・歯周炎リスクの関連を検討した二標本メンデルランダム化研究(Scientific Reports)
https://www.nature.com/articles/s41598-024-54860-w - Kinane DF, Stathopoulou PG, Papapanou PN. Periodontal diseases(2017)
歯周病の疫学・病因・リスク因子・予防に関するNature Reviews Disease Primersのレビュー
https://www.nature.com/articles/nrdp201738 - Sugars and dental caries(2025)
砂糖とむし歯の関係に関するWHOファクトシート
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/sugars-and-dental-caries
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔学会 認定医
医療記事を数多く執筆・TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づいた正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けしています。
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