電子タバコ・加熱式タバコは歯には安全?最新研究が示す歯周病・歯の変色リスクを歯科医が解説
「紙巻きタバコよりは安全」「煙が出ないから歯にもあまり悪くない」と言われることがある電子タバコ(vaping)や加熱式タバコ(ヒートスティック)。しかし、歯科の領域では、これらが歯周病や歯の変色にどのような影響を及ぼすのかについて、徐々にエビデンスが集まりつつあります。
この記事では、2021〜2026年に発表された系統的レビューや日本の疫学研究、材料研究を中心に、「電子タバコ・加熱式タバコと歯の健康」の最新知見を一般の方向けに整理します。「禁煙したいけれど、電子タバコに切り替えていいの?」「加熱式タバコなら歯周病リスクは下がる?」といった疑問にも、できるだけ科学的にお答えします。
目次
- 紙巻きタバコが歯周病・歯に与える影響の基本
- 電子タバコ・加熱式タバコとは何か:しくみを簡単に整理
- 系統的レビューの結論:電子タバコ・加熱式タバコの歯周病リスク
- 日本の疫学データ:加熱式タバコを「紙巻きと併用」すると歯周病リスクはどう変わる?
- 治療成績からみた加熱式タバコ:切り替えると歯周治療成績はどこまで改善する?
- 電子タバコ単体の歯周病への影響:「紙巻きよりマシ」だが無害ではない
- 歯の変色・補綴材料への影響:加熱式タバコはどこまで「マシ」なのか?
- 「減煙」「デュアルユース」は歯の健康に役立つのか?
- 歯科からみた禁煙戦略:電子タバコ・加熱式タバコとの付き合い方
- まとめ:歯の健康を守るために今できること
1. 紙巻きタバコが歯周病・歯に与える影響の基本
まず前提として、従来の紙巻きタバコが歯周病に悪影響を与えることは、数多くの研究でほぼ確立された事実です1。
- 喫煙者は非喫煙者に比べて、歯周病の有病率・重症度が高く、歯の喪失数も多い
- 歯周治療(スケーリング・外科処置)の成功率が低く、治癒が遅い
- インプラント周囲炎のリスクが高い
タバコに含まれるニコチンは歯周組織の血流を減少させ、免疫反応を抑え、歯周病原菌の定着を促進します。タールは歯面にプラークが付きやすい環境をつくり、一酸化炭素は組織への酸素供給を妨げます2。これらが重なって「喫煙者の歯周病は進みやすく、治りにくい」状態が生まれます。
歯周病予防と治療の観点から、紙巻きタバコをやめることが大きなメリットをもたらすことは、疑いようのない事実です1,2。
2. 電子タバコ・加熱式タバコとは何か:しくみを簡単に整理
電子タバコ(e-cigarette, vaping)
- リキッドに含まれるニコチンや香料を電熱コイルで加熱し、蒸気(エアロゾル)として吸入する装置
- 燃焼ではなく加熱によるエアロゾルのため、タールや一酸化炭素は生じないが、ニコチン・プロピレングリコール・各種アルデヒド類などの有害物質は依然として含まれる3
加熱式タバコ(heat-not-burn tobacco, HTP)
- タバコ葉を約240〜350℃で加熱し、燃焼させずにニコチンを含むエアロゾルを発生させる製品(IQOS等)
- タールや一酸化炭素は紙巻きより大幅に減るが、エアロゾルに含まれるニコチン・重金属・炎症誘発性物質は歯ぐきに直接影響しうる3
歯科的には、「煙が出るかどうか」よりも、「歯ぐきや歯の表面にどんな化学物質がどのくらい触れるか」が重要になります。
3. 系統的レビューの結論:電子タバコ・加熱式タバコの歯周病リスク
2026年3月、査読誌 Exploration of Medicine に発表された系統的レビューは、PubMed・Web of Science・Scopusから2,277報を検索し、12の臨床研究を最終的に選出・分析しました3。
主な結論は次のとおりです。
- 電子タバコ・加熱式タバコの使用者では、非喫煙者と比べて親炎症性サイトカイン(TNF-α・IL-6など)が増加し、抗炎症性メディエーターが低下していた
- 歯周病原菌の増加を含む口腔内フローラの乱れ(ディスバイオシス)が確認された
- 非外科的歯周治療(スケーリング・ルートプレーニング)後の治癒が、非喫煙者より遅延する
- 加熱式タバコ使用者は紙巻き喫煙者よりもやや歯周指標が良い傾向があるが、非喫煙者より歯周状態が悪い
研究者は「電子タバコ・加熱式タバコは害の少ない代替品として宣伝されているが、歯周組織に対する有意なリスクは依然として存在し、完全禁煙が最善策」と結論づけています3。
4. 日本の疫学データ:加熱式タバコを「紙巻きと併用」すると歯周病リスクはどう変わる?
日本のデータからは、加熱式タバコを「紙巻きと併用(デュアルユース)」することの危険性が二つの研究で示されています。
JASTIS研究(2021年):横断研究
日本の大規模インターネット調査JACSTISを用いた横断研究(10,439名)では、紙巻きのみ・加熱式タバコのみ・紙巻き+加熱式タバコ併用・非喫煙者の4群で、歯周病の自己申告有病率が比較されました1。
非喫煙者を基準(1.00)とすると、
- 加熱式タバコのみ使用者:PR 1.43(95% CI 1.03–1.62)
- 紙巻き喫煙者のみ:PR 1.29(95% CI 1.03–1.62)
- 紙巻き+加熱式タバコ併用者(デュアルユーザー):PR 1.55(95% CI 1.20–1.99)
「紙巻きから加熱式に切り替えたつもりが、両方吸うようになってしまった」というケースでは、単独使用のどちらよりも歯周病の有病割合が高いことが示されました1。
縦断研究(2026年):東北大学グループ
東北大学・名古屋大学グループは2021〜2023年のJACTIS(日本COVID-19と社会インターネット調査)パネルデータを用いた縦断研究を発表しました4。
歯周炎を有する紙巻き喫煙者193名(平均57.6歳・男性67.9%)を2年間追跡し、「紙巻きを継続したままどのように移行したか」によって4群に分け、2023年時点での重度歯周炎リスクを比較した結果、61.1%が重度歯周炎に移行しました4。
紙巻き継続群を基準とすると、
- 紙巻き優位のデュアルユーザー:RR 1.41(95% CI 1.04–1.91) — 統計的に有意
- HTP優位のデュアルユーザー:RR 1.19(95% CI 0.67–2.11)
- 禁煙・減煙群:RR 0.99(95% CI 0.76–1.28)
「紙巻きを残しながら加熱式タバコを上乗せする」デュアルユースは、歯周病リスクを下げるどころか高める傾向があることが示されています4。
5. 治療成績からみた加熱式タバコ:切り替えると歯周治療成績はどこまで改善する?
加熱式タバコへの完全切り替えが、歯周治療の成績にどう影響するかを調べた日本の多施設ランダム化比較試験があります。
日本の多施設RCT(2022年、Frontiers in Dental Medicine)
歯周治療(スケーリング・ルートプレーニング)と同時に、「紙巻き継続群」「加熱式タバコ完全切り替え群」「禁煙群」を6ヶ月間追跡しました5。
- 禁煙群:ポケット深度・出血・アタッチメントレベルなど多くの指標が最も改善
- 加熱式タバコ完全切り替え群:紙巻き継続より一部指標が改善したが、禁煙群には及ばない
- 紙巻き継続群:改善幅が最も小さい
「紙巻きから加熱式タバコへ完全に切り替えることで、歯周治療の成績はやや良くなる可能性がある。ただし禁煙の効果には及ばない」というのが結論です5。
6. 電子タバコ単体の歯周病への影響:「紙巻きよりマシ」だが無害ではない
電子タバコ単体の影響については、「紙巻きよりやや歯周病への影響が小さい」という研究がある一方、「非喫煙者より安全とは言えない」とするものも多くあります。
ネットワークメタ解析(2022年)
非喫煙者(NS)・紙巻き喫煙者(TS)・電子タバコ使用者(ES)の3群を比較したネットワークメタ解析では6、
- ポケット深度:紙巻き > 電子タバコ ≧ 非喫煙者
- プラーク指数:紙巻き > 電子タバコ > 非喫煙者
という順となりました。電子タバコは「紙巻きより歯周病への影響は少ない可能性があるが、非喫煙者と同レベルとは言えない」というのが結論です6。
系統的レビュー+メタ解析(2023年)
16件の臨床研究を統合したメタ解析では、電子タバコ使用者は紙巻き喫煙者よりプロービング出血(BoP)の頻度が低い傾向がありましたが(BoP オッズ比 0.33、p = 0.03)、非喫煙者との比較では出血頻度が上昇していました(p < 0.01)7。研究者は「電子タバコが歯周病に対して安全と断言するにはRCTが不足しており、慎重な評価が必要」と述べています7。
2024〜2025年の複数の系統的レビューでも、「電子タバコと歯周病悪化の明確な関連は追跡期間の短さや研究数の少なさから断定できず、長期的な安全性は未確認」という共通認識が示されています8,9。
7. 歯の変色・補綴材料への影響:加熱式タバコはどこまで「マシ」なのか?
歯の色や補綴材料への影響についても、加熱式タバコが紙巻きより「マシ」ではあるものの、無害ではないことが示されています。
歯の硬組織への影響(2024年)
歯のエナメル質・象牙質・コンポジットレジン・セラミックを紙巻き煙および加熱式タバコエアロゾルに曝露した研究では10、
- 紙巻きタバコ:歯の色が顕著に黄色〜褐色へ変化し、コンポジットとの色差も大きくなる
- 加熱式タバコ:紙巻きほどではないが、歯・材料ともに有意な色変化が起こる
- 非喫煙(対照群):色変化が最も少ない
間接修復材料への影響(2024年)
間接修復材料(セラミック・コンポジットブロックなど)への影響を調べた研究では、加熱式タバコエアロゾルは材料の表面粗さを増加させ、着色や汚れが付きやすい表面状態になることが報告されています11。また、着色・変色の比較研究においても、加熱式タバコが歯の変色を引き起こすことは1990年代後半から一貫して示されており12、「着色が全くない」わけではありません。
結論として、「加熱式タバコは紙巻きより歯の変色が少ない可能性はあるが、白い歯や美しい補綴物を保ちたい人にとっては、依然としてリスクとなる」と言えます10,11。
8. 「減煙」「デュアルユース」は歯の健康に役立つのか?
歯科の立場から見ると、「紙巻きを減らして電子タバコや加熱式タバコを併用する」いわゆるデュアルユースは、歯周病予防・治療の観点ではおすすめできません。
- JASTIS横断研究・縦断研究ともに、紙巻き+加熱式の併用者で歯周病・重度歯周病リスクが最も高い傾向がある1,4
- デュアルユーザーは、総ニコチン曝露量・エアロゾル曝露時間が増えやすく、歯ぐき・歯への負担も増える可能性が高い
- 「タバコの本数を減らす」だけでは、歯周病リスクの有意な低下につながりにくいことも示されている3
- 禁煙・減煙群と紙巻き継続群の重度歯周炎リスクはほぼ差がなかった(RR 0.99)が、これは追跡期間が1年と短いためと考えられ、長期的には禁煙メリットが大きくなると期待されている4
「紙巻きを完全にやめて電子タバコ・加熱式タバコのみにする」場合でも、非喫煙者と同等の安全性が確立されているわけではありません3,6,7。歯周病治療の観点では「紙巻き継続 < 加熱式タバコへの完全切り替え < 禁煙」という順に歯周組織へのメリットが大きくなります5。
9. 歯科からみた禁煙戦略:電子タバコ・加熱式タバコとの付き合い方
歯科医の立場からは次のように整理できます。
- 紙巻きタバコは、歯周病・インプラント周囲炎・歯の変色に対して最も大きな悪影響がある1,2
- 電子タバコ・加熱式タバコは、紙巻きより歯周病指標が「マシ」に見える研究もあるが、非喫煙者より安全とは言えず、長期的な安全性は未確認3,6,7
- 紙巻きと加熱式タバコのデュアルユースは、重度歯周病リスクを高める可能性があり、歯科的・公衆衛生的には「害減少策」とはみなせない4
- 歯周治療成績の観点では、「紙巻き継続」<「加熱式タバコ完全切り替え」<「禁煙」という順に効果が大きい5
電子タバコ・加熱式タバコを禁煙ツールとして活用する研究も行われていますが、歯科医が責任を持って「安全です」と言える段階ではなく、完全な禁煙が口の健康を守る観点から最も推奨されます3,5。
10. まとめ:歯の健康を守るために今できること
- 電子タバコ・加熱式タバコは、紙巻きより歯周病・歯の変色への影響が小さい可能性があるものの、非喫煙者より安全とは言えず、長期的な安全性も未確認3,6,7
- 紙巻き+加熱式タバコのデュアルユースは、重度歯周病リスクを高める可能性があり、歯科・公衆衛生的には「害減少」とはみなせない1,4
- 歯周治療の成績を良くしたい場合、「紙巻き継続」<「加熱式タバコ完全切り替え」<「禁煙」という順にメリットが大きくなる5
- 歯の色や補綴材料への影響の面では、加熱式タバコは紙巻きより「マシ」ではあるものの、着色・変色リスクは依然として存在する10,11
歯周病治療やインプラント治療をこれから受ける方、電子タバコや加熱式タバコを含めた禁煙の相談をしたい方は、ぜひかわせみデンタルクリニックにお越しください。お口の状態や生活習慣に合わせて、現実的な禁煙プランと歯周病予防を一緒に考えていきましょう。
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参考文献
- Combustible cigarettes, heated tobacco products, combined product use, and periodontal disease: A cross-sectional JASTIS study(2021)
紙巻きタバコ・加熱式タバコ・併用使用と歯周病リスクの横断研究(JACTISデータ、n=10,439)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8009369/ - 喫煙者は歯周病になりやすい?タバコ🚬が引き起こす口の中のトラブル(2024)
ニコチン・タール・一酸化炭素が歯周組織に与える影響の解説(かわせみデンタルクリニック院長コラム)
https://www.kawasemi-dc.jp/_cms/8278/ - Vaping, heated tobacco, and periodontal health: a systematic review of their effects on inflammation, microbiota, and non-surgical therapy response(2026)
電子タバコ・加熱式タバコと炎症・口腔マイクロバイオーム・非外科的歯周治療成績に関する系統的レビュー(Exploration of Medicine)
https://www.explorationpub.com/Journals/em/Article/1001387 - Switching from cigarette use to dual use with heated tobacco products and severe periodontitis risk(2026)
紙巻きタバコから加熱式タバコとのデュアルユースへの移行と重度歯周炎リスクの縦断研究(東北大学・名古屋大学グループ、Frontiers in Oral Health)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12883773/ - Effect of switching from cigarette smoking to the use of the tobacco heating system on periodontitis treatment outcome: Periodontal parameter results from a multicenter Japanese study(2022)
加熱式タバコへの切り替えが歯周治療成績に与える影響を調べた日本の多施設ランダム化比較試験(Frontiers in Dental Medicine)
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fdmed.2022.915079/full - Evaluation of periodontal indices among non-smokers, tobacco, and e-cigarette smokers: a systematic review and network meta-analysis(2022)
非喫煙者・紙巻き喫煙者・電子タバコ使用者の歯周指標を比較したネットワークメタ解析
https://link.springer.com/article/10.1007/s00784-022-04531-9 - The impact of electronic and conventional cigarettes on periodontal health—a systematic review and meta-analysis(2023)
電子タバコと紙巻きタバコの歯周健康への影響を比較した系統的レビューとメタ解析
https://link.springer.com/article/10.1007/s00784-023-05162-4 - The impact of electronic cigarette use on periodontitis and periodontal outcomes: a systematic review and meta-analysis(2024)
電子タバコ使用と歯周病アウトカムのメタ解析
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39385155/ - Effects of Electronic Cigarettes on Periodontal Health: A Systematic Review(2025)
電子タバコの歯周健康への影響に関する最新系統的レビュー
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12142770/ - Evaluating the Effects of Cigarette Smoking and Heated Tobacco Products on Dental Hard Tissues(2024)
紙巻きと加熱式タバコが歯の硬組織(エナメル質・象牙質・コンポジット・セラミック)に与える影響の比較研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11300513/ - Effect of conventional cigarette smoking and recent heated tobacco products on the surface roughness and color stability of different indirect restorative materials(2024)
加熱式タバコが間接修復材料(セラミック・コンポジット)の表面粗さ・色安定性に与える影響
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11227156/ - Effects of cigarette smoke and tobacco heating aerosol on tooth discoloration(2019)
紙巻きタバコ煙と加熱式タバコエアロゾルが歯の変色に与える影響の比較研究
https://europepmc.org/article/med/30564805
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔学会 認定医
医療記事を数多く執筆・TV取材多数
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