心臓病の人は「口の衰え」にも注意?オーラルフレイルと心血管リスクの最新研究を歯科医が解説
「硬い物が食べにくい」「汁物でむせる」「口が乾く」といった変化は、年齢や心臓病のせいとして片づけられがちです。近年は、歯の本数だけでなく、噛む、飲み込む、話すなど複数の働きをまとめて捉えるオーラルフレイルが注目されています。
はじめに
心臓病のある方では、口の機能が低下すると、食べにくさやむせが重なり、食事量や栄養のとり方にも影響し得る点に注意が必要です。確認の対象は、歯の本数だけではありません。噛む力、飲み込む力、口の乾きも含まれるのです。
研究で示されているのは、口の状態と心血管疾患の関連です。オーラルフレイルが心筋梗塞や脳卒中を直接起こすこと、歯科治療で心血管イベントを予防できることまで証明されたわけではありません。
1. 最新研究で分かったこと
2025年のシステマティックレビューは、データベースの開始時点から2024年3月までに公表された研究を調べ、高齢者22万6,025人を含む20研究をまとめました。対象になった口の指標は、歯の本数、歯周病、口の健康状態、口腔乾燥、噛む力の5つです。1
このレビューから分かるのは、「オーラルフレイル」と一つの言葉でまとめても、心血管疾患および脳血管疾患との関連は、どの指標をみるかで違っていたことです。研究では、次のような組み合わせが報告されました。1
- 歯の本数:高血圧を除く複数の疾患(冠動脈疾患、動脈硬化、不整脈、脳卒中など)との関連
- 歯周病:冠動脈疾患、動脈硬化、高血圧、脳卒中との関連
- 口の健康状態全般:冠動脈疾患や不整脈との関連
- 口腔乾燥:冠動脈疾患や脳卒中との関連
- 噛む力:病名を特定しない心血管疾患との関連
心血管疾患のある人に焦点を当てた別の2025年スコーピングレビューでは、70研究、累積89万1,450人のデータが整理されました。口の状態を調べる方法としては、39研究で歯の本数が使われていましたが、心血管疾患の文脈でオーラルフレイルを明確に定義した研究はありませんでした。心イベントとの関連を予後指標として扱った研究は8件あり、心臓病のある人の口をどう評価するかは、まだ統一されていません。3
2026年の日本の研究は、要介護認定を受けていない地域在住の65歳以上16,294人を調べた横断研究です。オーラルフレイルは全体の33.9%にみられ、心疾患のある人では42.9%でした。心疾患だけがある人では36.2%、心疾患にほかの慢性疾患が重なった人では44.3%で、多疾患併存の人で高い割合でした。2
三つの研究を踏まえると、心臓病のある方の口は、歯の本数だけでなく、歯周病、口の乾き、噛む力、飲み込む力を分けて確認する意義が示唆されます。研究が示したのは、心臓病の治療を歯科に任せることではなく、口の状態を食事や生活機能の一部として把握する必要性です。1, 2, 3
2. オーラルフレイルは何を指すのか
オーラルフレイルは、年齢とともに口の働きが少しずつ弱り、食べる機能や全身の体力にも影響し得る状態を指す考え方です。歯を失う、口が乾く、噛みにくい、飲み込みにくいといった変化が、別々に起こるのではなく重なっていきます。4
そのため、「歯が何本残っているか」だけで判断しません。食べる、飲み込む、話す、唾液で口を潤す、口の中を清潔に保つといった複数の働きをまとめて確認します。
日本で広く紹介されているOF-5では、次の5項目をセルフチェックします。5
- 自分の歯が20本未満である
- 半年前より硬い物が食べにくくなった
- お茶や汁物などでむせることがある
- 口の渇きが気になる
- 会話中に言葉をはっきり発音しにくいことがある
5項目のうち2項目以上に当てはまる場合は、オーラルフレイルのスクリーニング上の目安です。診断そのものではないため、気になる項目があれば、歯、歯ぐき、義歯、噛み合わせ、噛む力、飲み込みなどを歯科で確認するきっかけとして使います。4, 5
3. なぜ心臓病の人で口の機能が重要なのか
心臓病のある方で口の機能を確認する理由は、口の弱りが心筋梗塞や脳卒中を直接起こすと分かっているからではありません。口腔機能が低下すると、「噛みにくい」「義歯が痛い」「飲み込みにくい」といった問題が重なり、食べられる食品や食事量が減って、体力を保つ栄養をとりにくくなる可能性があるためです。2
肉、魚、野菜などを避けて軟らかい物に偏る状態が続けば、たんぱく質やエネルギーが不足することがあります。ただし、口腔機能の低下だけが低栄養の原因になるわけではありません。心臓病の重症度、腎機能、消化器症状、生活環境、経済的事情、認知機能なども関係するため、医科、歯科、栄養の視点を組み合わせて考える必要があります。
心臓病の治療で用いる薬剤や、加齢に伴う唾液分泌の変化によって口が乾くこともあり、その結果、話しにくさ、食べにくさ、義歯の不安定さ、むし歯や歯周病の管理の難しさにつながる場合があります。薬を自己判断で減らしたり中止したりせず、症状を処方医と歯科医に共有してください。
口の問題を早めに把握する目的は、心臓病を歯科だけで治療することではありません。食べる力、栄養状態、生活機能、むせや誤嚥の可能性を確認し、必要に応じて循環器内科、かかりつけ医、歯科、管理栄養士、言語聴覚士、リハビリテーション職が連携できるようにすることです。
4. 関連があっても因果とは限らない
現時点の研究から言えるのは、心臓病や心血管疾患のある人では、歯の喪失、歯周病、口腔乾燥、咀嚼や嚥下を含む口腔機能の低下が併存しやすいことです。一部の観察研究では、不良な口腔状態と、その後の心血管イベントや死亡との関連も報告されています。1, 2, 3
一方、口腔状態だけを使って、目の前の人の心筋梗塞や脳卒中のリスクを計算できる段階ではありません。口の衰えが心血管イベントを直接引き起こすことや、歯周病治療、義歯治療、口腔機能訓練によって心血管イベントを予防できることも、確立していません。
現在の研究で、まだ判断できない点は次のとおりです。
- オーラルフレイルが心筋梗塞、心不全、脳卒中などを直接悪化させるか
- 歯周病治療、義歯治療、口腔機能訓練などによって心血管イベントを予防できるか
- 歯を増やす治療が、心血管疾患の再発や死亡を減らすか
- どの口腔評価法が、心血管リスクの評価に最も有用か
観察研究では、年齢、糖尿病、喫煙、社会経済的要因、身体活動、栄養状態、心臓病の重症度などが、口腔状態と心血管アウトカムの両方に影響する可能性があります。口腔状態が悪い人に心血管疾患が多いとしても、口だけが原因とは限りません。
加えて、オーラルフレイルの定義や評価法は研究ごとに違います。歯数、質問票、噛む力、舌の力、発音、嚥下機能など、どの項目をどの基準で評価するかが統一されていないため、研究結果を単純に比べたり、個人のリスクとして断定したりできません。1, 2, 4
2024年のスコーピングレビューでは、歯周病治療、定期的な歯の清掃、歯みがきなどの口腔ケアと、心血管イベントやリスク指標との関係を扱った12研究が整理されました。口腔状態を整えることの意義は示唆されていますが、口腔保健を心血管疾患の治療や発症予防へ直接つなげる効果については、さらなる検証が必要です。6
5. 心臓病がある方が歯科で確認したいこと
心臓病のある方が歯科を受診する際は、「痛い歯だけ」ではなく、食べる、飲み込む、口を清潔に保つ機能も含めて相談するとよいでしょう。心臓病の病名、治療内容、服薬、最近の体調変化を共有すると、安全性に配慮した診査や治療計画を検討しやすくなります。
歯科では、歯や歯ぐきに加え、食事や口の乾きも確認の対象です。
特に、心不全などで体調が変動しやすい方では、歯科治療の内容、時間、体位への配慮が必要になることがあります。循環器内科などの主治医と情報共有しながら進める場合もあるため、病名や薬の情報が分かるものを受診時にお持ちください。
抗血栓薬を服用している方は、抜歯などの歯科治療を予定していても、自己判断で薬を中止しないでください。中止の可否や治療時の対応は、処方医と歯科医による個別判断が必要です。7
6. 歯科受診の目安
次のような変化がある場合は、定期検診を待たずに歯科へ相談することをおすすめします。
- 半年前より硬い物を避けるようになった
- 義歯が痛い、外れる、以前より噛めない
- 食事中や汁物でむせることが増えた
- 口が渇いて食べにくい、話しにくい
- 歯ぐきから出血する、腫れる、口臭が気になる
- 歯がぐらつく、歯が欠けた、歯の痛みがある
- 食事量が減った、体重が減った、食べることが負担になった
胸痛、強い息切れ、失神、急な片側の手足の脱力やしびれ、急なろれつ障害などがある場合は、歯科受診を優先せず、救急要請または速やかな救急受診が必要です。8, 9
7. よくある質問
Q. 心臓病の薬を飲んでいても、歯科治療は受けられますか?
病状と治療内容に配慮しながら、歯科治療を受けられる場合があります。心臓病の種類、症状の安定性、服薬内容、予定する処置によって対応が異なるため、受診時にはお薬手帳や薬剤情報を提示してください。
特に抗血栓薬は、血栓症や脳梗塞などの予防に重要な薬です。歯科治療のために自己判断で休薬や中止をせず、必ず処方医と歯科医に相談してください。7
Q. 口腔ケアをすれば、心臓病を予防できますか?
毎日の口腔ケアと定期的な歯科受診は、むし歯、歯周病、歯の喪失、口腔内の不快感を予防し、早期発見するために重要です。口腔ケアによって心筋梗塞、心不全、脳卒中などを予防できると断定できる根拠は、現時点では十分ではありません。6
口腔ケアは「心臓病を治す方法」としてではなく、食べる力や生活の質を支え、口の病気を減らすための基本的な健康習慣として続けましょう。
Q. 入れ歯の不具合は、痛くなければ放置してよいですか?
痛みがなくても、外れやすい、噛みにくい、話しにくい、食べ物が挟まるといった不具合は相談の目安です。合わない義歯を使い続けると、食べられる食品が減ったり、粘膜を傷つけたり、清掃が難しくなったりすることがあります。
義歯の調整だけでなく、残っている歯や歯ぐきの状態、噛み合わせ、口の乾き、食事の状況をあわせて評価することが大切です。
Q. むせが増えました。歯科に相談してよいですか?
はい。歯科では歯や義歯、噛む機能、口腔内の清潔状態などを確認し、必要に応じて医科や言語聴覚士などへの相談を提案します。むせは飲み込みの機能だけでなく、姿勢、食事形態、口腔乾燥、全身状態などとも関係し得るため、自己判断で放置しないことが大切です。
心臓病がある方にとって、口の健康管理は、歯だけの問題ではありません。食べにくさ、義歯の不具合、口の乾き、むせなどを早めに把握し、必要に応じて医科、歯科、栄養、リハビリテーションが連携することが、毎日の食事と生活を支える第一歩になります。
船橋で口腔機能や歯周病、義歯の使いにくさ、心臓病治療中の歯科受診について不安がある方は、かかりつけ医の情報やお薬手帳をお持ちのうえでかわせみデンタルクリニックへご相談ください。症状と治療状況を確認し、必要に応じて主治医と連携しながら診療方針を検討する流れです。
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参考文献
- 高齢者を対象に、オーラルフレイルの指標と心・脳血管疾患との関連を整理したシステマティックレビュー。
Dibello V, Lobbezoo F, Panza F, et al. Oral frailty indicators and cardio- and cerebrovascular diseases in older age: A systematic review. Mechanisms of Ageing and Development. 2025;223:112010. DOI: 10.1016/j.mad.2024.112010 - 日本の地域在住高齢者を対象に、心疾患や多疾患併存とオーラルフレイルの関連を調べた研究。
Ohashi N, Yoshizawa A, Matsubara C, et al. Impact of Heart Disease and Multimorbidity on Oral Frailty in Japanese Community-Dwelling Older Adults. Circulation Reports. 2026;8(6):917-925. DOI: 10.1253/circrep.CR-26-0056 - 心血管疾患患者の口腔評価法、関連する要因、予後との関係を整理したスコーピングレビュー。
Ogawa M, Okamura M, Yagi T, et al. Oral Health and Cardiovascular Disease: A Scoping Review of Assessment Methods, Risk Factors, and Prognosis. Circulation Reports. 2025;7(4):223-230. DOI: 10.1253/circrep.CR-24-0187 - 日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会. オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント. 老年歯科医学. 2024;38(4):E86-E96. 資料 [PDF]
- 日本老年歯科医学会. オーラルフレイルを知っていますか? 2024年4月1日更新.
- 口腔保健と心血管疾患の関係を扱った研究を整理し、口腔ケア介入の効果と今後の課題を示したスコーピングレビュー。
Usmani W, de Courten M, Hanna F. Can oral health care be a gateway to improve cardiovascular disease? A scoping review. Frontiers in Oral Health. 2024;5:1364765. DOI: 10.3389/froh.2024.1364765 - 日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2025年版. 資料 [PDF]
- 日本脳卒中協会. 脳卒中の主な症状 2018年3月9日公開、2026年3月19日更新.
- 総務省消防庁. 緊急度判定プロトコルVer.3_救急現場. 資料 [PDF]
執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事をほぼ毎日更新中・TV取材多数
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