歯医者の「局所麻酔薬が足りない」問題、今いったい何が起きているのか?── 2026年3月現在も続く深刻な供給不足

記事掲載日:2026/3/18
最終更新日:2026/4/10
目次
- はじめに:「麻酔できないので処置ができません」がすぐそこに
- 💉そもそも歯科の「麻酔」とはどんなもの?
- 😟 現在どのくらい深刻なの?
- 🔎 なぜこうなった? ── 原因は複合的な「構造問題」
- 📋 原因まとめ
- 📅 いつ解消される? ── 残念ながら「見通し不透明」
- 🏥 歯科医院側はどう対応している?
- ⚠️ 「買いだめ」という問題
- 🌐 歯科だけじゃない ── 医療全体の問題
- 📌 患者さんが今すぐできること
- まとめ
- 追記(4月以降)
はじめに:「麻酔できないので処置ができません」がすぐそこに
最近、歯医者に行ったとき「麻酔薬の在庫が少ないため、抜歯の予約をお断りしています」「処置の日程を後ろにずらさせてください」などと言われた方がいるかもしれません。あるいはニュースで「歯科用麻酔薬が不足している」という話題を見聞きした方もいるでしょう。
これは決して特定の歯医者だけの問題ではありません。2026年3月現在、全国の歯科医療の現場で、虫歯の治療や抜歯に使う「局所麻酔薬」が深刻に不足しており、厚生労働省が異例の通知を出すほどの事態になっています。
いったい何が起きているのか、なぜこうなったのか、そしていつ解消されるのか。歯医者に通うすべての方に知っておいてほしい現状を、わかりやすく解説します。
💉そもそも歯科の「麻酔」とはどんなもの?
歯科治療で使われる麻酔は、主に「局所麻酔」と呼ばれるものです。虫歯の治療や抜歯の前に、歯茎に注射する「あの麻酔」のことです。
この局所麻酔薬は、カートリッジ(注射薬の入った細長いガラス管)という形で供給されており、歯科医院では毎日大量に使用しています。これが今、全国的に手に入りにくい状態が続いているのです。
😟 現在どのくらい深刻なの?
状況をひと言で言えば、「市場シェアの約7割を占める主力商品が、まともに供給できない状態」です。
日本の歯科用局所麻酔薬には複数の製品がありますが、その中でも「オーラ注歯科用カートリッジ」(ジーシー昭和薬品)という製品が国内シェアの約7割を占める圧倒的な主力品です。この製品の製造に深刻なトラブルが発生し、出荷制限(限定出荷)が続いています。
さらに代替として使われるべき他の製品も、需要が一気に集中した結果、在庫が尽きて欠品状態となる悪循環に陥っています。
「残りの3割の製品で、7割分の需要を補わなければならない」──これが今の歯科現場の実情です。
🔎 なぜこうなった? ── 原因は複合的な「構造問題」
今回の問題は、一つの原因ではなく、複数の要因が重なり合って起きています。
原因① 製造ラインの相次ぐトラブル
最も直接的な引き金は、ジーシー昭和薬品の製造工場でのトラブルです。
主力製品「オーラ注」の製造設備を更新する作業の最終段階で、製造プログラムに不具合が発生し、安定した製造が困難になりました。一度は通常出荷を再開したものの(2024年8月)、その後また限定出荷に逆戻り。2026年になっても事態は改善されていません。
株式会社ジーシー昭和薬品 製品情報サイト 全てのお知らせ にあるオーラ注歯科用カートリッジ 1.0mL/1.8mLの供給に関する報告内容を、時系列順に表にまとめました。
| 報告回 | 案内日 | 主な内容・ステータス |
|---|---|---|
| 第1報 | 2022年8月9日 | 生産計画の調整により安定供給に支障が出る恐れがあるため、限定出荷を開始(8月16日〜)。 |
| 第2報 | 2022年9月22日 | ゴム栓の品質規格外が見つかり、調査と検査に時間を要したため生産量が大幅に減少。出荷調整を継続。 |
| 第3報 | 2022年11月 | 品質問題は改善し増産中だが、市場の供給不安から受注が増加。過去の実績に基づき配分。2023年2月頃に回復見込み。 |
| 第4報 | 2023年4月 | 受注残が解消せず、限定出荷を継続。1.8mLは出荷量通常だが、1.0mLは出荷量減少の状態。 |
| 第5報 | 2024年1月 | 出荷数量は過去実績まで回復したが、在庫量が不十分なため限定出荷を継続。 |
| 第6報 | 2024年7月 | 1.0mLの限定出荷を解除し通常出荷へ(8月5日〜)。1.8mLは限定出荷を継続。 |
| 第7報 | 2025年9月22日 | 製造設備の更新中にプログラム不具合が発生。1.0mLも再度限定出荷へ。出荷再開は11月頃の見込み。 |
| 第8報 | 2025年10月22日 | プログラム不具合は解消し、最終確認中。11月20日頃に出荷再開予定だが、当面は限定出荷。 |
| 第9報 | 2025年11月10日 | 設備の制御装置に新たな不具合が確認され、改善に時間を要するため、11月20日の再開見通しが困難に。 |
| 第10報 | 2025年11月26日 | 製造再開の目途が立ち、出荷を再開。1.8mLは2025年12月15日〜、1.0mLは2026年1月28日〜を予定。 |
各報告を通じて、生産計画の都合や品質問題、設備の更新トラブルなどが重なり、長期間にわたって限定出荷(出荷調整)が続いている状況がわかります。最新の第10報では、ようやく具体的な出荷再開時期が示されましたが、2026年3月現在も引き続き限定出荷の状態は継続されています。
また、別の製品「セプトカイン配合注カートリッジ」も2026年2月から再度の限定出荷に入り、さらに「歯科用シタネスト-オクタプレシンカートリッジ」(デンツプライシロナ社)も出荷停止となっています。代替品が次々と消えていく状況です。
第11報について


オーラ注1.8mlについて、出荷量通常としつつも限定出荷(自社の事情)は変わらず、通常出荷再開見込み時期[解除日]は未定とされています。
原因② 「1社集中」という構造的な脆弱さ
市場シェアの7割を1社が担うという構造は、平時には効率的ですが、ひとたびトラブルが起きると業界全体が揺らぐという弱点があります。
日本の薬の業界では、医薬品の製造コストの削減や効率化の流れの中で、メーカーが集約される傾向が続いてきました。その結果、「特定の1社が止まると、全国の歯科医院が一斉に困る」という危うい状態が生まれています。
原因③ 薬の原料を海外に頼りすぎている
日本の製薬会社は、薬を作るのに必要な「原材料(原薬)」を多くの場合、中国やインドなどからの輸入に依存しています。しかし近年、国際情勢の不安定化や地政学的リスクの高まりにより、「もう売らない」と輸出を制限する国も出てきており、原材料の安定調達が難しくなっています。
原薬の製造国(2025/10/17)[PDF]

今回話題にしているオーラ注に関しては現役の製造について日本と台湾で作ったものを使用しているようです。
原因④ 薬価制度が「薬を作る意欲」を削いでいる
少し専門的な話になりますが、これが「そもそもの根本問題」として非常に重要です。
日本では、薬の値段(薬価)は国が決めており、ほぼ毎年引き下げられています。この薬価改定によって、特に古くから使われている薬(いわゆる「後発品」など)は、薬価が極端に安くなってしまい、もはや作っても採算が取れないという状況になっているものが少なくありません。
製造コストや原材料費が上がっているにも関わらず売値は下がり続けるため、「この薬は作るのをやめよう」という判断をするメーカーが出てきます。メーカーが減ればさらに特定企業への集中が進み、そこでトラブルが起きると即座に全国的な品不足につながる──という負の連鎖構造が出来上がっています。
📋 原因まとめ
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 🔧 製造トラブル | 主要メーカーの製造設備更新時にプログラム不具合が発生 |
| 🏭 メーカー集中 | 市場の7割を1社が担う構造で、1社のトラブルが全国規模の問題に |
| 🌏 原料の海外依存 | 原材料を輸入に頼っており、国際情勢の不安定化が直撃 |
| 💴 薬価制度の問題 | 毎年の薬価引き下げで採算が悪化、製造撤退するメーカーが増加 |
| 📦 需要の急増 | 代替品に注文が殺到し、そちらも在庫切れに |
📅 いつ解消される? ── 残念ながら「見通し不透明」
多くの方が最も気になる「いつ治まるの?」という点ですが、現時点では明確な解消時期を示すことは難しい状況です。
メーカーは当初、2025年11月頃に出荷再開を見込んでいましたが、実際には間に合いませんでした。2026年3月現在も供給不足は「再燃」の状態にあり、大阪府保険医協同組合は「本件は全国的かつ構造的な供給問題であり、短期間での全面解消は見通しにくい」と明言しています。
医薬品ジャーナリストも「2026年になっても改善されておらず、今後さらに深刻な状況になっていく懸念がある」と指摘しています。
つまり、今回の問題は「製造トラブルさえ直せば終わり」という性質のものではなく、薬価制度・メーカー集中・原料調達といった構造的な問題が根底にあるため、完全な解消には制度改革を含む長期的な取り組みが必要です。
🏥 患者さんへの影響は?
① 虫歯治療・抜歯・外科処置の予約が取りにくくなる
麻酔薬が不足していると、虫歯治療はもちろんのこと、特に「抜歯」「歯根の外科処置」など、麻酔を多く使う処置の予約が取りにくくなったり、日程が先延ばしになったりすることがあります。ただし命に関わる緊急性のある処置は最優先で対応されます。
② 使う麻酔薬の種類が変わることも
在庫の関係で、普段と異なるメーカーの麻酔薬を使用する場合があります。成分や濃度が少し異なりますが、安全性は確保されています。何か不安があれば担当の先生に確認しましょう。
③ 小規模な診療所ほど影響を受けやすい
大きな病院や、メーカーと直接取引しているクリニックは在庫を確保しやすい一方で、小規模な歯科医院ほど仕入れ量が少なく、出荷調整の影響を受けやすい傾向があります。
🏥 歯科医院側はどう対応している?
多くの歯科医院は、患者さんへの影響を最小限にするために様々な工夫をしています。
- 複数の仕入れルートを確保 ── 一つの卸業者だけに頼らず、複数の業者から調達
- 適正な在庫管理 ── 過度な買いだめは流通全体を悪化させるため、必要量だけを確保
- 複数の麻酔薬を使い分ける ── 特定の製品が入手できなくなっても、別の製品で対応できる体制を整備
⚠️ 「買いだめ」という問題
実は不足の原因の一つに、「念のため大量に買っておこう」という医療機関の行動(パニック購買)があります。在庫があるうちに確保しようとする医院が増えると、全国的に流通が逼迫し、本当に必要なところに届かなくなるという悪循環が生まれます。これはマスク不足のときと同様のメカニズムです。
🌐 歯科だけじゃない ── 医療全体の問題
実はこの「局所麻酔薬不足」は、歯科に限った話ではありません。外科・整形外科・産婦人科・眼科・皮膚科・耳鼻科など、様々な診療科で局所麻酔が必要な場面は多く、それらの現場でも不足が報告されています。
アナペインの適応と供給制限の背景
【適応症】 アナペイン(一般名:ロピバカイン塩酸塩)は、主に医科における手術時の硬膜外麻酔、伝達麻酔、術後鎮痛などに用いられる局所麻酔薬です。運動神経よりも感覚神経を優先的に遮断する特性があり、術後の早期離床を助ける薬剤として臨床現場で広く重用されています。
【供給制限の主な理由】 現在、一部の製剤で出荷制限が続いている背景には、主に以下の要因があります。
- 製造工程のトラブル: 主要メーカーにおける製造設備不具合や、品質管理上の懸念に伴う一時的な供給停止。
- 需要の集中: 特定メーカーの欠品により、代替品を求める注文が他社へ殺到したことによる在庫の逼迫。
- 供給体制の再編: 原薬の調達遅延や、製造ラインのメンテナンスに伴う限定出荷。
2024年に発生した製造トラブル以降、深刻な供給不足が続いていましたが、2026年現在は増産や代替品の普及により回復傾向にあります。ただし、依然として一部製品では限定出荷(購入制限)が続いており、医療現場での調整は継続しています。
今回の問題の根底にある「薬価制度」や「医薬品の供給体制の脆弱さ」は、日本の医薬品行政全体の課題として、国も制度改革を検討していますが、現場における供給不安は依然として解消されていません。
📌 患者さんが今すぐできること
- 急ぎでない治療は予め相談を ── 抜歯や外科的処置が必要と言われたら、かかりつけ医に「麻酔薬の在庫状況」を早めに確認しましょう。
- 予約はキャンセルしない ── 麻酔薬の在庫を確保して予約を入れてくれていることが多いため、無断キャンセルは医院に大きな負担になります。
- 焦らず主治医に相談 ── 「麻酔できないから治療を断られた」という場合も、代替手段を一緒に考えてもらえる場合があります。
- 信頼できる情報を確認する ── 「あの歯医者は麻酔がある」「どこは在庫がある」といった断片的なSNS情報に踊らされないようにしましょう。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現状 | 国内シェア約7割の主力製品が限定出荷・停止状態、代替品も欠品が続く |
| 主な原因 | ①製造トラブル ②メーカー集中リスク ③原料の海外依存 ④薬価制度の構造問題 |
| 解消見通し | 「短期間での全面解消は見通しにくい」(構造的問題のため長期化の恐れ) |
| 患者への影響 | 抜歯・外科処置の予約困難、代替品への切り替え、小規模医院ほど影響大 |
| 制度的背景 | 薬価引き下げ→採算悪化→メーカー撤退→供給リスク増大という負の連鎖 |
今回の麻酔薬不足は、「一つの工場のトラブル」という表面的な話にとどまらず、日本の医薬品供給体制そのものの脆弱さが露呈した問題です。 制度改革、国産原材料の確保、メーカーの多様化など、長期的な視点での解決策が強く求められています。
かかりつけの歯科医師に疑問や不安を率直に伝えながら、医院側と連携して乗り越えていきましょう。
当院でも多少の在庫はありますが、日々在庫が減り続けている状況でこのままだと近い内に診療制限をかけなくてはいけない場合も出てくるかもしれません。今後、エチレン不足が歯科局所麻酔薬の供給不足に拍車をかけそうな状況もあり、予断を許さない状況が続いています。
皆様、ご協力のほどよろしくお願いします。
追記(4月以降)
4月9日 厚労省からのポスト
新情報として、冒頭で第7報(2025年9月22日)からの件について説明の後、「増産に必要な費用を政府が支援」が行われたことが書かれています。
「既に普段通りの出荷量に戻っています。」については2026年3月25日「供給状況(限定出荷)対象製品一覧(2026年3月25日現在)」や「オーラ注歯科用カートリッジ1.8mL」出荷状況のご案内(第11報)の情報通りのようです。
2026 年4 月より、現在のお取引先様への出荷数量が過去の月平均出荷実績まで回復する見込みとなりましたため、ご案内申し上げます。ただし、現時点での在庫量に鑑み、お取引先様への限定出荷(過去の月平均出荷実績)は継続させていただきます。また、既にご発注いただいている数量につきましても、納品までにお時間を要する場合がございます。
当院では週1箱届いていたものが徐々に欠品で未入荷のタイミングが出てきて3月には2週に1箱になり、4月10日現在は2週で1.5箱といった状況です。
参考文献
- 大阪府保険医協同組合「歯科用局所麻酔薬および代替品の供給状況について」(2026.2.27)
https://e-mdc.jp/news/detail_N000000292.html - SBSラジオ IPPO「歯科治療で使う麻酔薬が足りない」2026年1月6日放送 / 3月9日記事
https://www.at-s.com/life/article/ats/1916942.html - 【厚労大臣】歯科用麻酔・解熱鎮痛剤の入手困難問題 「卸売販売業者に供給を依頼した」 – 全国保険医団体連合会 (2015.1.18)
https://hodanren.doc-net.or.jp/info/news/2025-1-18/ - 日本歯科麻酔学会(医薬品・医療器材情報)
https://jdsa.jp/news/pharmaceuticals/
最新の限定出荷解除や、再度制限がかかった際の通知がPDFで掲載されています。 - Why is Lidocaine In Shortage? There are Various Reasons for Drug Shortages (2022.8.19)
リドカインが不足しているのはなぜですか?医薬品不足には様々な理由がある
https://pipelinemedical.com/blog/why-is-lidocaine-in-shortage/
アメリカでのリドカイン不足の原因と新型コロナウイルス感染症のパンデミックとの関連 - 全てのお知らせ|株式会社ジーシー昭和薬品 製品情報サイト
https://www.gc-showayakuhin.com/medical/info_all.html# - 原薬の製造国|株式会社ジーシー昭和薬品 製品情報サイト
https://www.gc-showayakuhin.com/medical/stable-supply/stable-supply-01_ono_202510.pdf - DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)
https://drugshortage.jp/
各種医薬品が現在「通常出荷」か「限定出荷」か、リアルタイムに近いステータスを確認できます。
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当院は、初診時にしっかりと検査を行い、虫歯・根管治療から矯正歯科・小児矯正まで、丁寧にご説明のうえで治療を進めています。
治療後も再発予防に努め、安心して通える歯科医院をめざしています。

