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全身麻酔や静脈内鎮静で使う全身麻酔薬・鎮静薬にも影響:ホルムズ海峡封鎖が与える医療リスク

日本では、医科の手術だけでなく歯科医師である歯科口腔外科医や歯科麻酔科医も全身麻酔や静脈内鎮静法を日常的に行っています。難しい親知らずの抜歯やかみ合わせが関係してくる顎の骨折、口腔がんの手術はもちろん、歯科恐怖症の患者さんや障害者歯科の患者さんでは、通常のイスでの歯科治療が難しく、静脈内鎮静法や日帰り全身麻酔が必要になる場面も少なくありません。こうした場面で使うプロポフォールやミダゾラムなどの薬と、ホルムズ海峡封鎖による石油ショックは、実は「石油」というキーワードでつながっています。

目次

  1. 歯科と全身麻酔・静脈内鎮静法の関係
  2. 歯科恐怖症・障害者歯科で静脈内鎮静法が必要になるとき
  3. ホルムズ海峡とは?石油と世界経済の要所
  4. 石油と麻酔薬・医療材料の意外なつながり
  5. 代表的な麻酔薬・鎮静薬は「石油から生まれた薬」
  6. ホルムズ海峡封鎖が長期化した場合の影響
  7. 手術・鎮静スケジュールはどう変わりうるか
  8. 患者さんが知っておいてよいポイント

1. 歯科と全身麻酔・静脈内鎮静法の関係

大学病院や大規模病院では、親知らずの抜歯、顎変形症手術、口腔腫瘍手術など、多くの歯科・口腔外科の処置が全身麻酔で行われています。こうした麻酔管理には、歯科麻酔科医や歯科口腔外科医が深く関わっています。

また、全身麻酔だけでなく、点滴から薬を入れてウトウトした状態を作る「静脈内鎮静法」も、歯科の現場でよく使われる方法です。とくに、怖さの強い方や、治療への協力が難しい方にとって、歯科治療を安全・確実に行うための大切な選択肢となっています。

2. 歯科恐怖症・障害者歯科で静脈内鎮静法が必要になるとき

歯科恐怖症の患者さんや、知的障害・発達障害・身体障害などをお持ちの患者さんの中には、「イスに座って口を開けていること自体が非常につらい」「治療器具を見るだけで強い不安やパニックが出てしまう」という方も少なくありません。

こうしたケースでは、次のような目的で静脈内鎮静法が行われます。

  • 恐怖心や緊張を和らげ、治療中の記憶をあまり残さないようにする
  • 動いてしまうリスクを減らし、安全に治療を進める
  • 口腔内の大きな処置や長時間の治療を、少ない回数で終わらせる

その際によく使われるのが、静脈麻酔薬のプロポフォールや、ベンゾジアゼピン系のミダゾラムです。これらは全身麻酔でも重要な薬ですが、歯科恐怖症・障害者歯科の静脈内鎮静でも中心的な役割を担っています。

3. ホルムズ海峡とは?石油と世界経済の要所

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ、世界で最も重要な海の「細い通り道」のひとつです。サウジアラビアやイラン、イラク、UAEなどの原油や液化天然ガス(LNG)が、この海峡を通って世界各地に運ばれています。

世界の海上輸送原油の大きな割合がこの海峡を通るため、戦争や封鎖でここが機能しなくなると、世界の石油供給が一気に細り、原油価格の高騰やエネルギーショックが起こると心配されています。最近の分析でも、「長期封鎖は1970年代のオイルショックと同等かそれ以上のインパクトになる可能性がある」と指摘されています。

4. 石油と麻酔薬・医療材料の意外なつながり

石油というと「ガソリン」「灯油」のイメージが強いですが、医療も石油に大きく支えられています。石油は化学工場で分解・精製され、ベンゼンなどの基礎化学品になり、そこから次のようなものに姿を変えます。

  • シリンジ、輸液セット、麻酔回路、気管チューブなどのプラスチック製品
  • 手袋・マスク・ガウンなどの合成ゴム・合成繊維製品
  • 多くの医薬品の出発原料(芳香族化合物、アルコール、ハロゲン化物など)

全身麻酔における人工呼吸器管理のために必要な気管チューブ、それに必要なシリンジも石油由来です

全身麻酔や静脈内鎮静で使う薬も、石油から作った化学原料を何段階も反応させて作られた「完全合成薬」がほとんどです。つまり、歯科治療に使う麻酔薬やディスポーザブル製品も、石油価格や供給の影響を避けて通れない構造になっています。

5. 代表的な麻酔薬・鎮静薬は「石油から生まれた薬」

詳細な化学式は抜きにして、「天然由来か、石油由来の合成品か」という視点で整理してみます。

吸入麻酔薬(主に全身麻酔)

  • セボフルラン
    石油から得られたフッ素化アルコールとホルムアルデヒド由来中間体を、酸やフッ化物の働きで反応させて作るフッ素多置換エーテルです。
  • デスフルラン
    同じく石油由来のフッ素化エーテルであるイソフルランを元に、塩素原子をフッ素に置き換える反応で合成される、吸入麻酔薬です。

静脈麻酔薬・鎮静薬(全身麻酔・静脈内鎮静)

  • プロポフォール
    ベンゼンから派生した芳香族化合物にイソプロピル基を2つ導入し、余分な部分を取り除く反応を経て合成されるフェノール系の静脈麻酔薬です。全身麻酔の導入だけでなく、歯科恐怖症や障害者歯科の静脈内鎮静にも広く使われています。
  • ミダゾラム
    ベンゾジアゼピン系の鎮静薬で、ベンゼン環をもつ有機化合物やエピクロロヒドリンなど石油由来の化学品から「輪っか(環)」をいくつもつなげて作られます。点滴または静脈内投与することで、不安を減らし、ウトウトした状態を作るのに用いられます。医科で皆さんが想像しやすいのは胃カメラの時に行う点滴での鎮静かと思います。

オピオイド鎮痛薬(全身麻酔・強い痛みのコントロール)

  • フェンタニル
    ケシから採れるモルヒネではなく、石油由来のアニリンや4-ピペリドンなどから合成される「全合成オピオイド」です。
  • レミフェンタニル
    フェンタニルと同じ骨格に、アクリル酸メチルなどから作る「切れやすいエステル鎖」を付けた薬で、体内のエステラーゼで素早く分解されるように設計されています。

まとめると、これらの薬はどれも「原油 → 化学原料 → 中間体 → 最終製品」という長いプロセスを経た、石油化学の産物です。全身麻酔薬と静脈内鎮静薬、その際に使う麻薬性鎮痛薬も石油から生まれた薬に支えられていると言えます。

なお、フェンタニルに関しては、2025年に供給制限が起こっており現場に混乱をきたしていました。フェンタニル製剤(テルモ株式会社)の海外生産工場における製造過程逸脱、ならびに無通告監査に対する改善対応のために製造停止を行ったことが発端で、出荷制限が最初に生じたのが2024年10月です。

6. ホルムズ海峡封鎖が長期化した場合の影響

ホルムズ海峡の封鎖が長期化すると、原油供給が減り、価格が高い状態が続く可能性があります。これは工場のエネルギーコストや、化学原料・プラスチック原料の価格、さらに国際輸送のコストにも影響します。

医療の世界では、次のような形で影響が出ることが考えられます。

  • セボフルラン、プロポフォール、ミダゾラムなどの原薬・原料の価格上昇
  • 薬剤の梱包・パッケージなどの価格上昇や一時的な供給制限
  • シリンジ、点滴セット(輸液セット)、気管チューブ、麻酔回路などディスポ製品の価格上昇や一時的な供給制限
  • 原料や中間体の納期遅延による、一部薬剤の在庫逼迫

こうした要因が重なると、医科や歯科で行う全身麻酔手術だけでなく、静脈内鎮静にも間接的な影響が及びます。

7. 手術・鎮静スケジュールはどう変わりうるか

過去の薬剤不足や供給障害の経験から、次のような変化が起こりうると考えられます。

  • 緊急性の高い手術・処置を優先し、待てる治療は延期する
  • 1日あたりの全身麻酔・鎮静件数を抑え、在庫を持たせる
  • 特定の薬を多く使う症例が同じ日に集中しないよう、スケジュールを分散させる

静脈内鎮静についても、プロポフォールやミダゾラムの供給がタイトになれば、

  • 本当に鎮静が必要な症例をより厳密に選ぶ
  • 局所麻酔だけで対応できる範囲を拡げるために工夫する
  • 可能な範囲で別の薬や方法(他の鎮静薬、吸入笑気など)に切り替える

といった対応が検討される可能性があります。

ただし、いずれの場合も「安全性を損なわない範囲でどう工夫するか」が大前提であり、単純に「鎮静をやめる」という話ではありません。

8. 患者さんが知っておいてよいポイント

  • 医科の手術はもちろんのこと、歯科恐怖症や障害者歯科で使われる静脈内鎮静(プロポフォール、ミダゾラムなど)も全身麻酔薬(セボフルラン、デスフルランなど)と同じく石油由来の化学原料から作られているため、世界の石油情勢や輸送の影響を間接的に受けます。
  • ホルムズ海峡の封鎖が長引くと、医療用の薬やディスポ製品の価格・供給に影響が出る可能性はありますが、多くの国で医療は「最優先で守るべきインフラ」とされており、政府・製薬企業・医療機関が協力して治療や手術を続けるための対策を取ろうとします。
  • 実際に治療や鎮静の方針を変える必要が出た場合でも、「安全を最優先にしながら、限られた資源をどう使うか」という観点からの判断になりますので、不安な点は歯科医師や麻酔科医に遠慮なく相談していただくことが大切です。

参考文献

  1. How Petroleum Impacts the Healthcare Industry (2025)
    石油が医療産業に与える影響
    https://www.adamsbrowncpa.com/blog/how-petroleum-impacts-the-healthcare-industry/
  2. Inhalational Anaesthetic Agents – Part One(2021)
    吸入麻酔薬と臨床使用の概説
    https://partone.litfl.com/inhalational-anaesthetics.html
  3. Amid regional conflict, the Strait of Hormuz remains critical to global oil trade (2026)
    地域紛争の中でも重要なホルムズ海峡
    https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=65504
  4. Experts weigh potential scenarios for oil if Strait of Hormuz closes (2026)
    ホルムズ封鎖時の原油市場シナリオ
    https://www.cnbc.com/2026/03/01/experts-weigh-potential-scenarios-for-oil-if-strait-of-hormuz-closes.html
  5. Global Oil Market Volatility and Its Impact on Medical Consumables Supply Chains in 2026 (2026)
    石油市場の変動と医療消耗品サプライチェーンへの影響
    https://www.ticarehealth.com/global-oil-market-volatility-and-its-impact-on-medical-consumables-supply-chains-in-2026_n188
  6. Sevoflurane – an overview(年次更新)
    セボフルランの合成と性質の概要
    https://www.sciencedirect.com/topics/chemistry/sevoflurane
  7. The Preparation of Desflurane by the Vapor-Phase Fluorination of Isoflurane (2011)
    イソフルランの気相フッ素化によるデスフルランの製造
    https://doi.org/10.1021/op100318b
  8. Process for the preparation of propofol (2021)
    プロポフォールの製造プロセス
    https://patents.google.com/patent/EP4126803A1/en
  9. Process Intensive Synthesis of Propofol Enabled by Continuous Flow Chemistry (2022)
    プロポフォールのプロセス指向型合成
    https://doi.org/10.1021/acs.oprd.1c00416
  10. Midazolam synthesis(2015)
    ミダゾラムの合成ルート
    https://www.chemicalbook.com/synthesis/midazolam.htm
  11. An Efficient, Optimized Synthesis of Fentanyl and Related Analogs (2014)
    フェンタニルおよび関連アナログの効率的合成
    https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0108250
  12. Laboratory and industrial synthesis of remifentanil (2012)
    レミフェンタニルの研究室・工業合成レビュー
    https://sciendo.com/pdf/10.2478/v10188-012-0022-2
  13. Supply disruptions are delaying surgeries and procedures (2023)
    供給障害が手術・処置の遅延を引き起こしている
    https://www.supplychaindive.com/news/supply-disruptions-delaying-surgeries-ecri/697657/
  14. The Anatomy of the Drug Shortages (2012)
    薬剤不足の構造
    https://www.apsf.org/article/the-anatomy-of-the-drug-shortages/

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