「塩をとれば熱中症は防げる」は本当か?一般人とアスリートで異なる賢い塩分摂取のポイントと、研究からわかる危険な摂り方
最終更新日:2026/7/25
熱中症(熱関連障害)対策としての「塩分(ナトリウム)摂取」は、一般の方とアスリートで考え方が少し異なりますが、「水分とのバランス」「タイミング」「運動時間・強度」を押さえることが重要です。
目次
- 熱中症と塩分の関係の基本
- 消防士研究が示した「塩のタイミング」の落とし穴
- アスリートにおけるナトリウム摂取の目的とリスク
- スポーツ中の「どれくらい・いつ」ナトリウムをとるか
- 一般の人・アスリート向けの実践的なポイント
1. 熱中症と塩分の関係の基本
汗には水だけでなくナトリウムなどの電解質が含まれ、長時間の発汗が続くと「水だけ」では体液のバランスが崩れやすくなります。
運動中に体重の約2%以上を失う脱水は持久力低下や熱関連障害のリスク上昇と関連し、4%以上の体重減少では熱中症(熱射病など)の危険が高まるとされています。
一方で、水やスポーツドリンクを「飲みすぎる」と、血中ナトリウムが薄まって低ナトリウム血症(EAH)を起こし、重症化すると意識障害やけいれんを招くことがあります。
ナトリウム摂取の役割は、
- 汗で失われるナトリウムの一部を補う
- 血液量と血圧を保ちやすくし、循環を安定させる
- 喉の渇きを促し、必要な水分摂取を後押しする
といった点にありますが、摂りすぎは高血圧など別のリスクにつながるため「必要な場面に、必要な量」が原則です。
なぜスポーツドリンクでも低ナトリウム血症になりうるのか
- 低ナトリウム血症は「汗でナトリウムを失うこと」プラス「ナトリウム濃度の低い飲料を大量に飲んで血液を薄めること」で起こります。
- 市販スポーツドリンクにはナトリウムが入っていますが、血清ナトリウム濃度(約135–145 mEq/L)と比べると十分に高いとはいえず、「長時間・大量に」飲めば依然として「希釈(薄める方向)」に傾き得ます。
- 実際の運動関連低ナトリウム血症の報告では、「水だけ」だけでなく「水やスポーツドリンクを必要以上に飲み続けた」ケースが典型的な原因として挙げられています。
どんな状況でリスクが高くなるか
- 長時間(目安として4時間以上)の持久運動や耐久レース・軍事訓練など
- 「脱水が怖いから」とペースや喉の渇きに関係なく、こまめを超えて「がぶ飲み」を続ける場合
- 発汗量に対して水分摂取量が多く、運動中~終了後に体重がスタート時より増えているようなケース
このような条件下では、水だけでなくスポーツドリンクの「過剰摂取」も、低ナトリウム血症の一因となり得ると考えられています。
実務的な注意点
- 「喉の渇きに応じて飲む」を基本とし、「脱水ゼロ」を目指して飲み続けない(体重がスタート時から増えない範囲を目安にする)。
- 長時間・高強度の運動では、飲む量と体重変化をチェックし、「飲み過ぎ」を抑えることを優先する。
- スポーツドリンクは「水よりはNa入りでマシ」ではありますが、「何を飲むか」よりも「どれだけ飲むか」の方が低ナトリウム血症予防では重要です。
したがって、「スポーツドリンクだから安心」と考えて無制限に飲むと、条件次第では低ナトリウム血症のリスクになりえます。
2. 消防士研究が示した「塩のタイミング」の落とし穴
2024年の日本の消防士を対象とした観察研究では、「塩をいつ摂るか」が熱関連障害のリスクと関係することが示されました。
対象は暑熱下の屋外訓練を行う男性消防士28名で、訓練前・訓練中・訓練後・未摂取のどのタイミングで塩タブレットを摂ったかと、めまい・強い喉の渇き・頭痛・1.5%以上の体重減少などの熱関連症状の有無が調査されました。
結果として、
- 訓練前のみの塩摂取:熱関連症状の約6倍増加(オッズ比 5.9:95%CI 1.4–24.7)
- 訓練前+訓練中の塩摂取:約20倍以上増加(オッズ比 22.9:95%CI 4.3–122.5)
と、いずれも「塩を摂らない場合」に比べて熱関連症状が有意に多くなっていました。
一方、「訓練中のみ」の塩摂取では有意な増加は見られませんでした。(約2倍増加:オッズ比 2.56、95%CI 0.54–12.2)。
著者らは、
- 日本では「塩を摂れば熱中症予防」というメッセージだけが強調され、「仕事前から塩だけを多く摂る」ような行動がみられる
- 塩だけ多く摂ると浸透圧上昇→一時的な血液量変化→利尿や体液シフトを通じて、かえって脱水を助長しうる
- ナトリウム補給は水分とセットで、失った分を補う形で行うべき
と考察しており、「タイミングを誤った塩摂取」がリスクになりうるとしています。
3. アスリートにおけるナトリウム摂取の目的とリスク
(1) 高用量ナトリウムと体温・パフォーマンス
持久系アスリート11名に2時間の有酸素運動(心拍予備能60%)+その後の疲労困憊テストを行い、900 mg/時のナトリウムカプセル(合計1800 mg)とプラセボを比較した試験では、以下の結果でした。
- 発汗量(約1.0 L/時)、体重減少(約2%)、皮膚温、熱感覚、心拍ドリフト、主観的運動強度、タイム・トゥ・エグゾースションのいずれも、ナトリウム群とプラセボ群で有意差なし。
- 室温は約21℃、相対湿度約35%で、暑熱環境ではない条件。
つまり、「比較的涼しい環境で2時間程度の運動をする訓練された持久系アスリート」において、900 mg/時という高めのナトリウム補給は、体温調節やパフォーマンスを目に見えて改善もしなければ悪化もしなかった、という結果です。
一方で、ナトリウムカプセルで吐き気などの消化器症状が出た参加者もおり、「高用量ナトリウムサプリメントは体温には有害でないが、別の副作用や高血圧リスクを考えると慎重に」という結論が述べられています。
(2) 低ナトリウム血症(EAH)と塩サプリ
超マラソン(80 kmステージレース)のランナーを対象に、ナトリウムサプリ・水分摂取・気候と血中ナトリウム濃度の関係を見た前向き研究では、以下の知見が得られています。
- 6.3%が運動関連低ナトリウム血症(EAH<135 mmol/L)、17.2%が高ナトリウム血症(>145 mmol/L)を発症。
- 暑熱レースでは、寒冷レースに比べEAHのオッズ比3.5、高ナトリウム血症のオッズ比8.8と、いずれも気候が独立したリスク因子。
- ナトリウムサプリ摂取は、EAHを防ぐことも、高ナトリウム血症を増やすこともなかった。
- EAH予防には「長いトレーニング距離(コンディショニング)」「低体重」「過剰水分摂取を避ける」ことが重要と示唆されています。
Wilderness Medical Societyのガイドライン更新でも、
- 「サプリとしてのナトリウムは、喉の渇きを強め、体重減少を完全に埋めるような“飲み過ぎ”が続くとEAHリスクをかえって高めうる」
- 「喉の渇きに応じて飲んでいる場合、ナトリウムサプリは血中ナトリウムを保護しない」
とされ、低ナトリウム血症対策の本筋は「飲み過ぎを避けること」であって、「塩を多く飲ませること」ではないと整理されています。
(3) 総説・ガイドラインが示す位置づけ
2022年の総説では、ナトリウムは
- 耐久スポーツにおいて、体水分量・血漿量の維持、ホルモン(アルドステロン・バソプレシン)の分泌維持、尿量減少を通じてパフォーマンスの低下を抑える可能性
- しかし、高用量・低用量いずれも健康・パフォーマンスへの問題(高血圧、EAHなど)の報告があり、最適量は個別性が大きい
と整理されており、特に「大量発汗+長時間運動+高温多湿」という条件でのみ、慎重なナトリウム補給の意義が大きいと述べています。
4. スポーツ中の「どれくらい・いつ」ナトリウムをとるか
(1) どれくらい失われるか
汗量と汗中ナトリウム濃度は個人差が大きいものの、
- 汗量:0.3–2.4 L/時(平均約1 L/時)
- 汗中ナトリウム:平均約1 g/L(約50 mmol/L)
とされ、1時間あたり1 L汗をかくと、ナトリウムを約1 g失う計算になります。
(2) 代表的な推奨の目安
スポーツ栄養の立場からは、以下のような目安がしばしば用いられています。
通常のトレーニング(~90分、涼しい~中等度の気温)
- 水や市販スポーツドリンク(Na 20–30 mmol/L、約460–690 mg/L)で十分
- 特別な塩タブレットは不要なことが多い
高温多湿 or 高発汗(>25℃、湿度>60%など)+長時間運動(>2時間)
- 発汗量が多い選手では、ナトリウム300–600 mg/時(NaCl換算で約1–2 g/時)の補給を検討
- ただし、「汗で失った分を大雑把に埋める」程度でよく、体重をスタート時から増やさない(=飲み過ぎない)ことが最重要
超持久(>4時間)、汗量>1.8 L/時、かつ発汗の7割以上を補うような多量の水分摂取が想定される場合
高ナトリウム飲料(例:Na 50–60 mmol/L)での運動中試験でも、通常レベル(約20 mmol/L)に比べて血中Na維持や血漿量への明確な追加効果は小さく、むしろ高濃度では尿中排泄が増えることが示されています。
(3) タイミング:事前ローディング vs. 運動中・運動後
運動前の「大量塩ローディング」
- 一部の研究では、暑熱環境下で女性・男性持久系アスリートに対し、運動前の高Na飲料が体液バランスや主観的負担を改善したとする報告もありますが、小規模で結果が一貫しているわけではありません。
- 消防士研究では、「仕事前だけ多量の塩を摂る」行動が熱関連障害リスク増加と関連しており、特に一般職場や日常生活では推奨しにくいと考えられます。
運動中
- 1–2時間程度の運動では「Na入り飲料を選ぶ」程度で足りることが多く、別途タブレット追加は必須ではありません。
- 2時間を超える高温下の持久運動では、体重変化と自覚症状(足のこむら返り、極度の疲労、めまいなど)を見ながら、Na 300–600 mg/時を目安に調整していくアプローチが勧められています。
運動後
- 脱水からの回復には、失った体重の100–150%に相当する水分を数時間かけて補うことが推奨されます(例:運動で1 kg減ったら1.0–1.5 L)。
- 高Na濃度の経口補水液は、運動後の水分保持とNa・Clバランスの回復に有利で、NaCl 50–60 mmol/L程度までは尿中排泄増大も比較的少なく効率が良いとされています。
5. 一般の人・アスリート向けの実践的なポイント
(1) 一般の人(屋外作業・部活など)
「事前に塩をたくさん飲んでおく」は避ける
- 消防士研究では、仕事前の塩タブレット摂取が熱関連症状リスクの増加と関連していました。
基本は「喉が渇く前からこまめな水分補給」+「食事としての適量の塩」
- 通常の和食で1日6 g前後の塩分を摂っていれば、多くの人は軽~中等度の活動における汗のNaを十分に補えます。
強い発汗を伴う作業・部活(夏場の長時間練習など)
- 水や麦茶だけでなく、Naを含むスポーツドリンクを併用
- 軽度の脱水・熱中症症状には経口補水液
- 汗で服に白い塩が浮くような「塩っぽい汗」の人や、足がよくつる人は、飲料中のNa量を意識して少し高めを選ぶのは理にかないます。
- ただし、虫歯・酸蝕症のリスクが跳ね上がるため、ストローを併用して歯に付かないよう飲む。飲んだ後は水やお茶で口をすすぐ。などの対策が必須です。
(2) アスリート向けチェックポイント
まず「飲み過ぎ」対策
- レース中~直後の体重がスタート時より増えていないか(増えていれば飲み過ぎのサイン)。
- 「喉の渇きに応じて飲む」ことを基本にし、事前計画で「1時間あたりの上限量」を決めておく。
自分の汗量と体重変化を見る
- 練習前後に体重を測り、1時間あたりの体重減少(≒汗量)を把握する。
- 体重減少が2%以内に収まるよう、水+Naを調整するのが目安。
ナトリウム摂取の目安
- 涼しい~中等度環境・90分以内:特別な塩タブレットは不要なことが多い。Na入りスポーツドリンク程度。
- 高温多湿+2時間超:Na 300–600 mg/時を一つの目安に、「飲み物+補助的タブレット」で分散して摂取。自覚症状と体重変化で微調整。
- 4時間を超える超持久:必要に応じて専門家と「個別のNa戦略」を立てる(汗Na測定も選択肢)。
「塩さえ飲めば熱中症を防げる」は誤解
- 高用量Naサプリは、涼しい環境では体温・パフォーマンスを有意に改善せず、副作用(胃腸症状、高血圧リスクなど)はありうる。
- 熱中症予防の柱は、暑熱順化・適切なペース配分・こまめな休憩・衣服調整・水分管理であり、塩分は「補助役」と考えるのが妥当です。
「虫歯」と「酸蝕症」対策は必須
参考文献
- Inappropriate timing of salt intake increases the risk of heat-related illness: An observational study (2024)
不適切な塩分摂取タイミングは熱関連疾患リスクを増加させる:観察研究
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10760686/ - Effects of Oral Sodium Supplementation on Indices of Thermoregulation in Trained, Endurance Athletes (2015)
訓練された持久系アスリートにおける経口ナトリウム補給が体温調節指標に及ぼす影響
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4306770/ - Effect of Sodium Supplements and Climate on Dysnatremia During an Ultramarathon (2021)
超マラソンにおけるナトリウムサプリメントと気候がナトリウム異常血症に及ぼす影響
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32097177/ - Effects of Sodium Intake on Health and Performance in Endurance and Ultra-Endurance Athletes (2022)
持久・超持久アスリートにおけるナトリウム摂取が健康とパフォーマンスに及ぼす影響
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8955583/ - Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Management of Exercise-Associated Hyponatremia: 2019 Update (2020)
運動関連低ナトリウム血症管理に関する荒野医療学会クリニカルガイドライン:2019年改訂
https://journals.sagepub.com/doi/10.1016/j.wem.2019.11.003 - Electrolyte Losses and Replacement During Exercise (2022)
運動中の電解質喪失と補給
https://us.humankinetics.com/blogs/excerpt/electrolyte-losses-and-replacement-during-exercise - Post-exercise rehydration: Efficacy of three oral rehydration solutions for restoring fluid and electrolyte balance after exercise-induced dehydration (2023)
運動誘発脱水後の水・電解質バランス回復における3種の経口補水液の有効性
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10174327/ - Post-Exercise Rehydration in Athletes: Effects of Sodium and Carbohydrate Content (2023)
アスリートの運動後再水和におけるナトリウムおよび炭水化物含有量の影響
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https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5634236/ - Exercise and Fluid Replacement (2007)
運動と水分補給
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17277604/ - 熱中症対策としての塩分補給と高血圧症対策としての塩分制限を フィットネス現場で熟考する – 大学体育研究 (2022)
https://www.sapec.tsukuba.ac.jp/content/uploads/2022/04/44.04.pdf
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執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆・TV取材多数
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