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国民皆歯科健診の受診案内:健診結果の名簿を渡す前に決める3つのこと

この記事で分かること:健診結果から歯科の受診を案内するには、文面より先に、名簿を誰に、どの形で渡すかが問われます。健診結果の扱いは、個人情報保護委員会などのガイダンスとQ&Aが既に示しています1,2。共有のルールは既にあるため、決まっていないのは、どの型を使うかです。

目次
  1. 健診結果は要配慮個人情報で、案内は既存の結果通知に載せられる
  2. 名簿の渡し方は、委託・共同利用・第三者提供から役割で選ぶ
  3. 医療費の数字だけでは、案内のどこで止まったかが分からない
  4. 先行制度の資料に、見直しを始める条件は書かれていない
  5. 提案1:案内は保険者が出し、外へ渡す名簿を減らす
  6. 提案2:年度で区切り、手元の記録から4つの人数と費用を数える
  7. 提案3:方法を見直す条件と決める人を、始める前に書いておく
  8. まとめ:名簿を渡す前に、3つを1つの文書にする

1. 健診結果は要配慮個人情報で、案内は既存の結果通知に載せられる

健診結果は特に配慮が要る個人情報です。ただ、保険者には結果を本人へ返す通知が既にあり、歯科の案内はそこに載せられます。

個人情報保護法では、健康診断等の結果を含む個人情報は「要配慮個人情報」に当たります1。保険者は利用目的をできる限り特定し、その目的に必要な範囲を超えて扱うことはできません1。歯科の案内に使うなら、受診勧奨を利用目的として示します。

保険者には、特定健診を受けた加入者へ結果を通知する義務があります3。通知には本人が健康状態を自覚するための情報を添え、その事務は健診機関へ委託できます4。厚生労働省の「標準的な健診・保健指導プログラム」は、特定健診の質問票で「かみにくいことがある」「ほとんどかめない」と答えた人に、歯科医療機関の受診を勧めるとしています5。

職域では、事業主も健診結果を健康診断個人票として5年間保存する義務を負います6。事業主の手元にある結果を案内に使うなら、次の節で取り上げる型をあらかじめ決めておきます。

2. 名簿の渡し方は、委託・共同利用・第三者提供から役割で選ぶ

名簿を受け取る側がどんな仕事を担うかで、委託・共同利用・第三者提供のどれに当たるかが決まります。

個人情報保護委員会のQ&Aによれば、事業者と健保組合は異なる主体です。健診結果を他方へ提供するには、原則としてあらかじめ本人の同意が要ります。例外となるのは、法令に基づく提供や、要件を満たした共同利用です2。

型使う場面先に定めること
委託保険者が自ら行う案内の発送などを外部へ任せる業務の範囲、契約、委託先の安全管理と監督1
共同利用保険者と事業主などが同じ保健事業を行い、定めた範囲でデータを扱う項目、利用者の範囲、目的、管理責任者を、あらかじめ本人に知らせる1,2
第三者提供受け手が独自の目的で個人データを扱う本人の同意(原則)、提供記録の義務に当たるかの確認1,2

共同利用では管理責任者の氏名又は名称、住所、法人の場合は代表者の氏名も、あらかじめ本人に通知するか、本人が容易に知り得る状態に置くことが要件です2。

3. 医療費の数字だけでは、案内のどこで止まったかが分からない

職域の歯科健診と医療費の関係を調べた研究はあります。ただ、医療費の数字は、案内が届いたか、歯科を受診したかを映しません。

持田らは、2014年度から2019年度まで在籍した従業員2,104人のデータで、5年間に集団歯科健診を4回か5回受けた群と未受診群を比べました。受けた群は年平均の歯科診療医療費が低い関連がありました。未受診群を1とした比(率比)は0.87で、歯科診療医療費が13%低いという意味です。95%信頼区間(推定がおおむね収まる幅)は0.77〜0.98です7。幅の上の端も1を下回るので、医療費が低いという関連は偶然だけでは説明しにくい結果となっています。観察研究なので、健診だけによる費用の削減とは言えません。同じ研究班の科研費の実施状況報告(査読論文ではない)では、医科の外来・入院医療費との間に有意な関連はみられませんでした8。医療費の変化は、何と比べ、何年見るかを決めてから追います。始めて間もないうちは、案内した人のうち何人が歯科を受診したかを見るのが適切です(数え方は後述の提案で示します)。

4. 先行制度の資料に、見直しを始める条件は書かれていない

特定保健指導やがん検診には、見直す意思も実例もあります。ただ、確認した4例の資料には、どの数がどうなったら見直すかが書かれていません。歯科健診では、始める前にこれを決めておく必要があります。

第4期特定保健指導について、厚生労働省の資料は、国が保険者などと連携して運用の状況をつかむと書いています。そのうえで「課題が明確になった場合は、第4期計画期間中においても運用上の見直しを行うべきである」としています9。何をもって「課題が明確」とし、いつまでに判断するのかは示されていません。がん検診では、国が2016年4月1日から適用した指針の改正10で、胃がん検診に胃内視鏡検査が加わりました。指針は胃部エックス線検査について、当分の間、40歳以上も対象として差し支えないとしています11。この「当分の間」には、期限も示されていません。

確認したのは、学校健診12、特定健診の質問票13、がん検診10,11、特定保健指導9という4例の公開資料です。その範囲では、見直しを始める数値・期限・判断の手順を一組にした記載は見つかりませんでした。

ここからは提案です。

5. 提案1:案内は保険者が出し、外へ渡す名簿を減らす

1つ目は、保険者が対象者を選んで本人へ直接案内し、歯科医療機関や案内事業者へ検査値を渡さずに済ませることです。

特定健診を受けた人には、1節の結果通知に歯科の案内を添えれば、案内だけのために郵送を増やす必要はありません。結果通知とは別に送る場合や、特定健診の対象外となる人へ送る場合は、郵送費と、抽出や発送にかかる担当者の時間が新たにかかります。

外部へ任せる業務に当てはめるのは、2節の型です。発送だけを事業者に任せるなら、委託として設計する余地があります。健診結果は案内する相手を選ぶために使い、歯周病かどうかは、受診した歯科医療機関が診察や必要な検査で判断します。医科の健診結果だけで、歯周病の有無は確定できないからです。

6. 提案2:年度で区切り、手元の記録から4つの人数と費用を数える

2つ目は、案内の担当者が年度末に1回、手元にある記録から4つの人数と費用を数えることです。新しく調べ直す必要はありません。

数える人数使う記録
案内の対象対象者を選んだ名簿
送付発送の記録から、宛先不明で戻った分を除く
歯科の受診保険者は案内後の歯科のレセプト、市区町村は検診の受診記録
継続受診翌年度のレセプトまたは受診記録

受診をレセプトで確かめる方法は、医科の受診勧奨で既に勧められています5。費用は、郵送費と担当者がかけた時間です。別の人に送ってしまったなどの事故は、起きたその日に日付と内容を1行メモします。

数えるのは年度ごとです。保険者は特定健診等の実施状況を毎年度報告しています3。市区町村の歯周疾患検診の受診者数も、国の地域保健・健康増進事業報告で年度ごとに集計されています14。いつもの報告と同じ年度で数えれば、初めて担当する人も迷いません。4つの人数を並べれば、案内が届かなかったのか、届いても受診しなかったのか、受診が続かなかったのかが分かります。集計を公開するときは、個人が分からない形にします。

ただ、保険者や自治体がそれぞれのやり方で数えると、ほかと比べられません。全国で数え方をそろえられるのは国です。特定健診では、保険者が毎年度、実施状況を報告することが法律で定められています3。何を歯科健診と数えるかを国が決めた例もあります。後期高齢者支援金の加算・減算制度(保険者の取組に応じて支援金を増減する仕組み)のQ&Aでも、「歯科健診は歯科医師が対面で行う健診に限ります」と示されているのがその一例です15,16。そこで、4つの人数をどう数え、何を報告するかを、国が実施要領や報告の様式で示すことを提案します。それまでは上の表を見本にして、自分たちの数え方を書き残しておけば、国の様式が出たときに合わせて直せます。

7. 提案3:方法を見直す条件と決める人を、始める前に書いておく

3つ目は、提案2の数を見て翌年度の方法を変える条件と、それを決める人を、案内を始める前に文書にすることです。

送付に対する受診の割合、継続受診の割合、情報の事故、担当者の時間、費用から点検する項目を選びます。項目ごとに、年度末のどの数がどこまで下がれば翌年度の方法を変えるかを書いておき、初年度は比べる数が無いので、1年目の数を基準として残し、2年目からその差で判断します。先の資料9が保険者に期待しているのも、データで確かめながら保健事業を計画的に進めることです。この記事では、案内の方法を変えるかどうかは、案内を出す保険者や自治体が自分の事業として決めることを提案します。国に求めるのは、提案2の数え方をそろえることです。決める責任者を組織内の役職で定めておけば、担当者が替わっても見直しが続きます。

8. まとめ:名簿を渡す前に、3つを1つの文書にする

共有のルールは既にあります。名簿を渡す前に、次の3つを1つの文書にします。

  1. 名簿を渡す型と、案内を出す主体(提案1)
  2. 年度末に数える4つの人数と費用(提案2)
  3. 方法を見直す条件と決める人(提案3)

保険者・自治体・企業の担当者が案内を始める前にこの文書を作っておけば、年度末の数から受診につながらない段階が分かり、決めておいた人が翌年度の方法を変えられます。

関連記事

参考文献

  1. 個人情報保護委員会、厚生労働省「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
  2. 個人情報保護委員会「『健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』を補完する事例集(Q&A)」<第三者提供 第27、第29、第30条関係>問326
  3. 「高齢者の医療の確保に関する法律」(昭和57年法律第80号)第23条(特定健康診査の結果の通知)・第142条(報告等)
  4. 「特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準」(平成19年厚生労働省令第157号)第3条(特定健康診査に関する結果等の通知)
  5. 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」(第2編第4章「健診における各機関の役割」60頁、第2編 質問票 問13の解説と対応方法 95〜96頁)
  6. 「労働安全衛生規則」(昭和47年労働省令第32号)第51条(健康診断結果の記録の作成)
  7. 持田悠貴、渕田慎也、アルタンバガナ ナンデン ウチラルほか「事業所での集団歯科健診および歯科医院での個別歯科健診への受診と外来の歯科診療医療費および診療実日数との関係:縦断研究」口腔衛生学会雑誌 2024;74(4):290-297. DOI: 10.5834/jdh.74.4_290
  8. 科学研究費助成事業 22K17276「職域での歯科健診を含む歯科保健対策による医療費抑制効果の10年間の検証」2023年度実施状況報告書(研究代表者:持田悠貴、神奈川歯科大学)
  9. 厚生労働省「特定健診・特定保健指導の効率的・効果的な実施方法等について(議論のまとめ)」(効率的・効果的な実施方法等に関するワーキング・グループ・2022年8月12日付。第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会 第3回資料1-2として2022年10月12日に提出)
  10. 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針の一部改正について」(健発0204第13号、2016年2月4日)
  11. 厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(健発第0331058号、平成20年3月31日・改正あり)
  12. 文部科学省「学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知)」(2014年4月30日)(「健康診断マニュアル」掲載「学校保健安全法施行規則施行通知」、26文科ス第96号、PDF通し3頁「Ⅳ 1」)
  13. 厚生労働省「第三期特定健康診査等実施計画期間に向けての特定健診・保健指導の実施について(これまでの議論の整理)」(2016年8月10日・検討会参考資料2-2)
  14. 厚生労働省「令和6(2024)年度地域保健・健康増進事業報告の概況」(健康増進編「2 歯周疾患検診・骨粗鬆症検診」)
  15. 厚生労働省「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&A」(2027年度以降支援金、2026年5月21日一部改正)(同ページ「第4期(2024年度~)」のQ&A(2027年度以降)、001695188.pdf、PDF通し9頁Q30・Q31)
  16. 厚生労働省「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&A」(2025・2026年度支援金、現行版)(同ページ「第4期(2024年度~)」のQ&A(2025・2026年度)、001309673.pdf、PDF通し10頁Q32・Q33)


執筆・監修 中村 瞬
かわせみデンタルクリニック 院長 / 歯学博士(歯科麻酔学)/ 日本歯科麻酔科学会 認定医
医療記事を数多く執筆。TV取材多数
医学的根拠(エビデンス)に基づく、正確で分かりやすい情報を患者目線でお届けします。


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